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2024.07.09 官公庁業界

自治体DXとは?先進事例や地方が抱える課題

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民間企業でのDXが急速に進んでいる昨今、2021年9月1日にデジタル庁が発足したことを受け、自治体でもDXの重要性が叫ばれています。DXに向けた取り組みが既に始まっている自治体もあるものの、大半の自治体ではアナログ文化の定着や人材不足などの理由から、思うようにDXが進んでいないのが現実です。

本記事では、自治体DXの目的や課題、進め方のポイントについて解説しています。先進事例も詳しくご紹介しますので、自治体DXを検討している方はぜひ参考にしてください。

1.自治体DXとは?わかりやすく解説

自治体DXの「DX」とは、「Digital Transformation(デジタル・トランスフォーメーション)」の略です。2020年12月に政府が策定した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針の概要」によると、今後目指すべきデジタル社会について、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」というビジョンが示されています。デジタル社会を実現するべく、民間企業で加速しているDXが自治体でも求められているのです。

1-1.企業DXとの違い

民間企業におけるDXと自治体DXとの違いを解説します。企業DXの目的は、デジタル技術を駆使した新たなビジネスの創出や組織風土の変革です。激変する社会の中で生き残りをかけて競争優位性を確立することが、企業DXでは求められています。

一方、自治体DXのゴールは、デジタル技術を活用した地域住民の利便性向上や職員の業務負担軽減です。競争優位性の確立を目指す企業DXとは目的が異なることを理解しておきましょう。

1-2.自治体BPRとは

自治体DXの中でも近年注目されているのが、自治体BPRです。BPRとは「Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」の略で、「業務再設計」といった意味になります。これまでの業務プロセスを見直し、より効率的かつ効果的に新たに再構築することを示しています。

こうした業務改善について、民間企業では比較的スピーディーに物事を進めることができますが、自治体や行政組織となるとそうはいきません。予算の取得から改善方法の検討・申請・承認まで時間がかかる場合が多いため、自治体BPRを効率的に進めるには、中長期的な視点に立った業務改善の仕組み作りが求められます。

2.自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画とは

2020年、自治体DXの行動指針となる「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」が、総務省により発表されました。計画の対象期間が2021年1月から2026年3月までと定められており、この期間に自治体が重点的に取り組むべき事柄がまとめられています。具体的な内容を、6つの項目に分けて見ていきましょう。

2-1.情報システムの標準化・共通化

これまでは、自治体ごとに異なる情報システムが使用されてきました。自治体DX推進計画には、17の基幹業務に関するシステムについて、国が定める標準仕様のシステムへ移行することが記載されています。17の基幹業務とは、以下の通りです。

 

全自治体で標準化・共通化された情報システムを使用することで、自治体間での連携運用も可能になります。また、独自で使用していたシステムの管理にかかる費用や労力も不要になり、職員の負担軽減も実現できるでしょう。地域住民にとっても、各種手続きの簡素化や待ち時間の軽減といったメリットを得ることができます。

2-2.マイナンバーカードの普及促進

デジタル社会の基盤を築くべく、政府はマイナンバーカードの普及を促進しています。マイナンバーカードがあれば保険や納税の状況も含めたあらゆる個人情報を一元管理できるほか、本人確認もカード1枚で完結できるようになります。

2022年度末までに、ほとんどの国民がマイナンバーカードを保有していることが当初の目標でしたが、2024年3月末時点で、保有率は約73.5%にとどまっています。政府はカードの交付にかかる人件費や専用窓口の設置費用などを補助する意向を示しており、引き続きマイナンバーカードの普及促進が進められています。

2-3.行政手続きのオンライン化

行政手続きをオンライン化すると住民は窓口に出向く必要がなくなるため、利便性が向上し、職員の業務負担も大きく軽減されます。マイナンバーカードを使って申請を行うことが想定される31手続きを対象に、オンライン化が進められています。
31手続きをジャンルごとに大きく分けると、「子育て関係」「介護関係」「被災者支援関係」「自動車保有関係」の4つとなります。子育て関係の手続きでは、児童手当の請求や氏名変更、介護関係であれば要介護認定申請や被保険者証の再交付申請などでオンライン化が進められています。

2-4.AI・RPAの利用推進

業務の自動化や効率化を目指し、AI・RPAの利用が推進されています。AIはいわゆる人工知能のことで、人間の脳に似た機能を持たせたコンピューターのことを指します。RPAは「ロボティック・プロセス・オートメーション」の略で、ルーティンワークをロボットによって自動化するツールです。

こうしたデジタル技術の活用は、もはや必須といえるでしょう。業務の一部を機会に任せることで、職員は人の手でしか行えない業務に注力できるからです。人口規模の大きい自治体から順次導入が進められています。

2-5.テレワークの推進

新型コロナウイルス感染症の拡大により、自治体でもテレワーク化がある程度進みました。今後もテレワークの継続拡大ができれば、育児や介護などでライフステージが変化しても職員が柔軟な働き方を選びやすくなるでしょう。

もちろんテレワークは感染症防止にも効果的です。パンデミックが再び起こった時、住民が必要とする業務を維持するためにもテレワークの更なる推進が急がれています。

2-6.セキュリティ対策の徹底

DXを推進する上で、セキュリティ対策は避けて通れません。デジタル技術の活用が進めば進むほど、個人情報や機密情報の流出リスクが高まるからです。

昨今、サイバー攻撃の話題がたびたびメディアを賑わせていますが、当然民間企業だけではなく公共機関も標的となりますので、徹底したセキュリティ対策が求められます。具体的な対策としては、次期自治体情報セキュリティクラウドへの移行などが挙げられます。

3.少子高齢化と自治体DX

自治体DXが叫ばれている背景として、少子高齢化の問題も挙げられます。総務省の調査によると、2020年の75歳以上の人口は1,860万人、15~64歳の人口は7,509万人ですが、2040年には、75歳以上の人口が2,227万人、15~64歳の人口は6,213万人になると見込まれているのです。

高齢者が増えると労働力人口は減少します。地方公務員の人数を見てみると、2021年4月1日時点では280万1,596人でした。最も公務員の人数が多かったのは1994年ですが、当時と比較すると約48万人も減少しています。公務員が減ると、十分な行政サービスの提供が難しくなるかもしれません。少ない人数でも円滑にサービスが提供できるような体制を作るべく、いま自治体DXが求められているのです。

 

4.地方自治体におけるDX推進の課題

ただ、地方自治体でのDX推進は大きな課題を抱えています。4つの視点から、詳しく見ていきましょう。

4-1.自治体に残るアナログ文化

自治体のDXを妨げる大きな要因として、根強く残るアナログ文化が挙げられるでしょう。これまで紙ベースで行われてきた役所での手続きは「伝統」として手法が固定化されているものも多いです。こうした手法を変革するのは容易ではありません。とはいえ、紙ベースでの手続きには、書類の保管スペースや管理方法の問題などがつきまといます。個人情報が書かれた書類を紛失すれば、住民からの信用は地に堕ちます。

もしアナログ文化から脱却し、電子書類の形でクラウドストレージなどに保存すれば、物理的な書類スペースが不要となるほか、紛失のリスクも大幅に減らせるでしょう。更に、様々な書類を集める手間も省くことができます。このように、デジタル化にはアナログにはない様々なメリットがあるのです。

4-2.DXに対する無理解・知識不足

DXの推進には、自治体職員全員の協力が欠かせません。しかし、DXに対する無理解や知識不足から、足踏みしてしまっている自治体が多いのが現状です。

DXへの理解が浸透しない背景には、業務の進め方を大きく変えてしまうことへの不安や、一時的とはいえデジタルへの移行途上で増加する業務量への懸念などが挙げられます。また、自治体に就職する際、デジタルスキルの有無は問われてこなかったため、そもそもデジタルの重要性を理解しない職員がいるといった問題もあるでしょう。

繰り返し述べてきたように、DXが進めば、手続きの簡素化や業務負担の軽減といった様々なメリットが得られます。こうしたメリットを職員全員と共有し、DXへの意識を高めていくことが大切です。

4-3.デジタル人材の不足

デジタル人材の不足もDXを阻む要因の一つです。地方自治体だけでなく、民間企業でもDX人材の不足は大きな問題となっており、国全体で取り組むべき課題とされています。

この問題の解決策としては、人材の育成やアウトソーシングなどが考えられるでしょう。DXコンサルティングを専門とする会社に依頼することで、スムーズなDXを実現できる場合もあります。とはいえ、アウトソーシングはあくまで一時的/限定的な課題解決にとどまってしまうケースも多いため、自治体内でのDX人材育成に重きを置きつつ、必要なところだけDXをアウトソーシングする方法がおすすめです。

4-4.自治体と住民のコミュニケーション不足

自治体と住民のコミュニケーション不足はよく起こりがちな問題です。マイナンバーカードを例に考えるとわかりやすいでしょう。マイナンバーカードがあれば、様々な行政手続きを簡略化、DX化できます。本人確認書類としても使えますので、非常に便利なカードであることは間違いありませんが、なかなか国民の間に普及しないのは、そのメリットが十分に伝わっていないからだと考えられます。

マイナンバーカード以外にも、自治体側と住民側で認識が異なっている手続きが多数あるはずです。粘り強いコミュニケーションを通して、住民との認識合わせをすることが、自治体DX実現には求められます。

 

5.全国の自治体DX先進事例

すでにDXが進んでいる自治体もあります。ここでは「自治体サービスのDX(住民の利便性向上、地域活性化)」と「自治体内部のDX(業務効率化、人事改革)」に分けて先進事例をご紹介しますので、参考にしてください。

5-1.自治体サービスのDX(住民の利便性向上、地域活性化)

【行政手続きのオンライン化】
ある自治体では、電子申請システムを活用したオンライン申請サービスが開始されており、住民は自宅で手続き内容を確認できます。加えて来庁者向けに、複数の申請書を一括作成できる窓口総合支援システムの構築も始められています。また、別の自治体ではオンライン上での子育て相談や市民への対応も始まっています。

 

【デジタル通貨による経済活性化】
特定の地域やコミュニティ内で使えるデジタル通貨を発行している自治体もあります。人口が減少している地域においては、経済活動の衰退が深刻な問題となっているため、キャッシュレス決済などに対応できるデジタル通貨を導入することで、経済の活性化が図られています。

 

【電子回覧板による周知効果アップ】
高齢化が進む地域では、回覧板を回すこと自体が大きな負担となり、住民に情報が行きわたらない場合もあるため、一部自治体では電子回覧板が導入されています。

スマホからいつでもチェックできるため、回覧板を持ち運ぶ負担もなく、重要な情報の見落としも防ぐことが可能です。

5-2.自治体内部のDX(業務効率化、人事改革)

【ネットワーク環境改善によるグループウェアの導入】
これまでの自治体内ではインターネットは使用できず、庁内のイントラネットを使って業務が行われていました。ですが、総務省によりネットワーク環境の見直しが行われ、今では情報セキュリティ対策が万全に行われていれば、自治体でもインターネットを使用することが可能となっています。結果、民間企業で使われているグループウェアを導入する自治体が増え、業務効率化が進んでいます。

 

【採用枠に「デジタル職」を新設】
DX人材の確保に向けた自治体の取り組みに注目が集まっています。その一例が、新卒および中途採用における「デジタル職」の新設です。基本情報技術者試験など、IT系資格試験への合格を採用要件に定めており、デジタル関連業務に従事できる人材が採用されています。

6.自治体DXの進め方

本章では、自治体DXの基本的な進め方についてご紹介します。総務省が発行している「自治体DX全体手順書」に記載された4つのステップに沿って進める流れが一般的です。

6-1.ステップ0:DXの認識共有・機運醸成

これからDXに着手する自治体がまず取り組むべきステップが、DXの認識共有・機運醸成です。自治体DXを成功させるには職員全員の協力が不可欠ですが、そもそも首長や管理職がDXの重要性を理解していないケースも少なくありません。

自治体DXの意義や目的をまずは首長や管理職がしっかり理解した上で、一般職員と認識を共有することが重要です。また、自治体DXは業務の効率化や改善を目指す取り組みではありますが、行政サービスは住民向けに提供されるため、利用者の視点に立って進めることも忘れてはいけません。

6-2.ステップ1:全体方針の決定

職員への認識共有・機運醸成ができたら、次のステップは全体方針の決定です。政府が策定した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」に示されているビジョン(「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」)をもとに、自治体が抱えている問題点を分析して方針を決めていきます。取り組みの進捗状況や大まかなスケジュールを工程表にまとめ、組織内で共有できるようにしておきましょう。

6-3.ステップ2:推進体制の整備

全体的な方針がまとまったら、推進体制を整備する段階に入ります。それぞれの業務部門とのスムーズに連携が必要になるため、司令塔としてDX推進担当部門などを設置し、組織体制を整えましょう。また、デジタル人材の育成・確保も必要です。組織内でデジタル技術に精通した人材が足りていない場合には、外部人材の活用や民間事業者への業務委託も検討しましょう。

6-4.ステップ3:DXの取組の実行

推進体制が整ったら、いよいよDX施策の実行に入ります。PDCAサイクルを使いながら進捗管理を行いましょう。また、よりスピーディーな意思決定が求められる場合には、OODAループ(※)のフレームワークを活用しましょう。

※OODAループとは、「Observe(観察、情報収集)」、「Orient(状況、方向性判断)」、「Decide(意思決定)」、「Act(行動、実行)」の頭文字をつないだ言葉で、意思決定プロセスを理論化したもの。PDCAと異なり、計画を立てるステップがないため、スピーディーな意思決定ができる。

6-5.その他:関連するドキュメントの確認

その他関連資料として、自治体DXをより効果的に進めるためのドキュメントが存在します。必要に応じて参考にしてみてください。

1. 自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書【第3.0版】
2. 自治体の行政手続のオンライン化
3. 自治体DX推進手順書参考事例集

7.自治体DXを推進する際のポイント

自治体DXを推進する際のポイントを、2つご紹介します。

7-1.小規模の施策からスタート

まず小規模の施策から取り組みましょう。大規模なDXを進めてしまうと住民に混乱をもたらす可能性が高いです。住民からの問い合わせが殺到し、業務に支障をきたしかねません。

住民への影響を最小限に留めるため、小さなDXから始め、住民から意見をフィードバックしてもらうのがいいでしょう。小さな改善を積み重ねることで住民のDXに対する理解度も上がり、本格的なDXへの道が拓けてくるはずです。

7-2.補助金などを活用した資金繰り

新たなシステムの導入やDX人材の育成にはどうしても大きなコストがかかります。そこで検討したいのが、補助金などを活用した資金繰りです。たとえば、「デジタル田園都市国家構想交付金」は、デジタル技術を活用した地方活性化や行政サービスの高度化・効率化に対して、必要経費が支援されます(4つの支援タイプのうちのデジタル実装タイプ)。

あるいは、ふるさと納税も効果的です。魅力的な返礼品には多くの寄付が見込まれますので、DXの財源も確保しやすいでしょう。また、ふるさと納税制度とクラウドファンディングを組み合わせたガバメントクラウドファンディングにも注目が集まっています。「子育て支援の充実」といったような目的を明確化したプロジェクトを立ち上げ、事業内容に共感した協力者から寄付金を募る方法です。

 

8.まとめ

住民の利便性向上と職員の業務負担軽減のため、自治体DXへの取り組みが叫ばれています。総務省が発表した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」では、自治体が重点的に取り組むべき事項として6つの分野が紹介されています。

根強く残るアナログ文化など様々な問題は残っていますが、DXが進んでいる自治体も増えてきました。ぜひ、自治体DXを検討する際は、本記事でご紹介した自治体DXの手順や事例を参考にしてください。