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2024.07.09 DX人材育成

DX人材とは?必要なスキル・マインドセットや育成のポイント

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デジタル技術を活用してビジネスモデルや企業文化・風土の変革を目指す取り組みとして、DXが大きく注目されています。DXの推進には、単に業務のデジタル化だけではなく、自社の経営戦略や業務の進め方などについても深く理解している人材が必要です。ひとくちにDX人材といっても職種ごとに役割が異なるため、それぞれの特徴を理解しておきましょう。

本記事では、DX人材に求められるスキルやマインドセットなどについて解説しています。育成のポイントもご紹介しますので、DXの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

1.DX人材とは

「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称であるDXは、経産省の「デジタルガバナンスコード・2.0」によると、次のように定義されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

またDX人材についても、経産省の「DXレポート2(中間とりまとめ)」にて、次のように定義されています。

自社のビジネスを深く理解した上で、データとデジタル技術を活用してそれをどう改革していくかについての構想力を持ち、実現に向けた明確なビジョンを描くことができる人材

1-1.IT人材との違い

DX人材と混同されがちなのが「IT人材」ですが、両者には明確な違いがあります。IT人材とは、最新のIT知識やスキルをもとに、システム開発や運用を担う人材のことです。情報システム部門に所属している社員をイメージするとわかりやすいでしょう。「ITシステムの導入」という価値を提供するのが主な役割であり、企業風土やビジネスそのものの変革までは求められないところがDX人材との大きな違いです。

2.DX人材が求められる背景

なぜ今DX人材が求められているのでしょうか。その背景について、4つの視点から考えていきます。

2-1.「2025年の崖」問題

DX人材が求められている背景に、「2025年の崖」問題があります。現在、国内の多くの企業で既存システムの老朽化・複雑化・ブラックボックス化していますが、こうしたシステムは、部門間をまたがった使用ができないことや特定の人しか操作できないこと、保守運用に大きなコストがかかることなど、多くの運用困難性を抱えており、DX推進の大きな妨げになっています。「2025年の崖」問題とは、このシステムのブラックボックス状態が解決されない場合、DXが実現できないだけでなく、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性がある、というものです。

こうしたシステムを刷新する際には、単にシステムを入れ替えるだけでなく、業務自体の見直し(=経営改革)も同時に求められるため、時には現場サイドからの抵抗にも対応しながら、大きな改革を成し遂げる必要があります。2025年を目前に控えた今、こうした危機的状況を変革するためのDX人材が強く求められています。

2-2.社会情勢やライフスタイルの変化

新型コロナウイルス感染症の拡大を通して、私たちのライフスタイルは様変わりしました。その最たる例が働き方の変化です。あの時テレワークやリモート会議の導入を余儀なくされたことで、社内ITインフラや就業ルールの見直しが行われ、オフィス出社だけではない柔軟な労働スタイルを選べるようになりました。デジタル技術によって働き方に変革をもたらしたテレワークは、まさにDXの好例です。こうした社会のニーズに合わせて、デジタルを駆使して新たな付加価値を生み出すDX人材の重要性は、ますます高まっていくでしょう。

2-3.少子高齢化と労働力人口の減少

ご存知のように、日本は超高齢社会に突入しています。高齢者が増える一方で労働力人口は減少していくため、少ない人数でも十分なクオリティのサービスが提供できるような業務改革の必要性があらゆる業界で生じています。そして、改革のカギとなるのがDXです。たとえば対面での手続きが必要だったサービスがWEB上で完結できるようになれば、より利便性の高いサービスが、少ない人数で提供できるでしょう。こうした業務改革を行うことができるDX人材の確保が急がれます。

2-4.国際社会での生存競争

DXに関する世界の状況を見てみましょう。国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界のデジタル競争力ランキング2023」によると、日本は64ヵ国中32位という結果でした。項目別では「デジタル/技術スキル」が63位とほぼ最下位で、世界に遅れを取っているとわかります。また、2023年に総務省が発表した「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究の請負成果報告書」によると、DXへの課題として「人材不足」を挙げた割合が日本は41.7%で、アメリカ(20.7%)・ドイツ(33.0%)・中国(30.7%)に比べて非常に高い数値でした。海外とこれ以上差をつけられないためにも、DX人材の需要が高まっているのです。

 

3.【6職種】DX人材の役割とスキル

様々な背景から必要性が叫ばれているDX人材は、主に6つの職種で活躍が期待されています。本章では、職種別に役割と必要なスキルを見ていきます。

3-1.プロデューサー

プロデューサーは企業全体のDXを主導するまとめ役です。責任の重い立場のため、管理職以上の人材が抜擢される傾向にあります。データやデジタル技術を活用する能力が備わっているのはもちろんのこと、自社のビジネス戦略や経営状況などにも精通している必要があります。

一時的なものではなく、継続した取り組みがDXには必要です。プロデューサーには、長期的なビジョンに立ったDX戦略の立案と実行力が求められます。また、DXの意義や目的を組織全体に向けて継続的に発信してくスキルや、スピーディーな意志決定力も重要です。

3-2.ビジネスデザイナー

ビジネスデザイナーは、DXの企画立案と推進を中心的に担う人材です。プロデューサーの描くビジネスモデルや戦略を具体化し、実現可能な施策に落とし込んでいきます。自社の強みを活かした新たなビジネスモデルや商品・サービスの創出も求められるため、発想力のある人材が好ましいでしょう。また、プロデューサーと同様に、自社のビジネスを深く理解していることも求められます。

DX推進メンバーとの関わり方も重要です。ビジネスデザイナーは関係者の業務調整やミーティングの進行役を務める場合もありますので、マネジメントスキルやコミュニケーション能力も必要となるでしょう。

3-3.UXデザイナー

UX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーは、DXに関するシステムやサービスをユーザーに向けてデザインする人材です。ここでの「ユーザー」とは通常、顧客のことを指しますが、社内のDXを行う場合は自社従業員のことを指します。また、UX(ユーザーエクスペリエンス)とは単に見た目のことだけではなく、使いやすさや待ち時間の少なさといったユーザー体験全般のことを指します。

わかりやすく、使いやすいシステムは、ユーザー満足度に直結します。そうしたシステムをデザインするには、ユーザーのニーズを見極めるスキルが欠かせません。更に「なぜ、そのデザインにしたのか?」が明確に説明できる言語化能力、そしてもちろん、デザイン能力そのものが必要です。UI/UXのトレンドは日々変化しているため、新しい知識やスキルを身につける積極性も求められます。

3-4.アーキテクト

アーキテクトは、プロデューサーやビジネスデザイナーが企画したシステムの設計フェーズを担う人材です。システム全体の機能性を考慮しつつ、実現したい機能を選定し、設計を進めていきます。

システム全体の設計を担当するため、データベースや通信技術、セキュリティ、そしてプログラミングといった、システム開発に必要なスキルを幅広く身につけた人材が求められます。また、システムについて専門外の人とやりとりをするシーンも少なくないため、コミュニケーションスキルも必要です。

3-5.データサイエンティスト/AIエンジニア

データサイエンティスト/AIエンジニアは、AIやIoTなどの先進デジタル技術やデータ分析に精通した人材です。社内外の膨大なデータを分析し、データに隠されたユーザーのニーズや行動パターンを見つけ出します。

数学や統計学、プログラミングの知識が必要なことから、専門性の高い職業といえるでしょう。実際のビジネスに役立つ情報を導き出すため、自社ビジネスへの深い理解も必要となります。

3-6.エンジニア/プログラマ

エンジニア/プログラマは、アーキテクトが設計した仕様をもとに、システムの実装を行う人材です。ネットワークやデータベース、サーバーなどの整備を担当するケースもあります。実際にシステムを作り上げていきますので、プログラミング技術の習得が必須です。

エンジニア/プログラマは主にシステムの実装を担当しますが、それだけに携わっていればいいわけではありません。より良いシステム作りに向けた設計アイディアを出すなど、ほかの役職とのコミュニケーションしていくことも大切です。

4.DX人材に必要なマインドセット

「DXを成功させるには、スキルや持って生まれた才能よりもマインドセットのほうが重要」と言われることもあります。本章では、DX人材に必要なマインドセットをご紹介します。

4-1.継続的な学習と飽くなき探究心

デジタル技術は、目まぐるしいスピードで進化しています。現時点での最新技術が、数ヶ月後に陳腐化してしまうケースも珍しくありません。時代や社会のニーズに合わせて適切にDXを進めるためにも、常に最新技術を学習し続けることが大切です。

4-2.最後まで諦めない責任感

「周囲からの協力が得られない」「リソースが足りない」などの理由で、DXが思うように進められない状況も当然出てくるでしょう。そんなときこそ気持ちを切り替え、プラスに考えることが大切です。「絶対にDXを成功させてみせる」という責任感を持ち、失敗しても諦めない姿勢を見せていれば、その熱意に理解を示してくれる人がきっと現れるでしょう。

4-3.周囲を巻き込むリーダーシップ

DX成功のカギをにぎるのは、全社が一丸となって取り組めるかどうかです。部門間や社員間の壁を乗り越え、DX推進に向けて人々を巻き込んでいく必要があります。その際に必要となるのが、周囲を巻き込むリーダーシップです。対立するメンバーや社外の関係者とも積極的にコミュニケーションを取りましょう。全員の意見をもきちんと聞くことで、「自分たちも関わっている」という意識を持ってもらいやすくなります。

4-4.多様な意見を受け入れる

自分の考えやスキルをオープンにすると共に、チームメンバーの考えやスキルも受け入れていく姿勢が求められます。新たなビシネスを作ったり、企業文化・風土の変革を行うには、新しい考え方に積極的に触れる必要があるからです。同じような経験を持つ人が集まると安心感や一体感は生まれるかもしれませんが、出てくる意見も似通うため、なかなか革新的なアイディアは生まれません。できるだけ多様性に富んだメンバーを集め、広い心で様々な意見を受け入れましょう。

4-5.未来を思い描く創造力

単なる業務の効率化ではなく、社内に深く根付いてきた文化や風土を根本的に改革することが、DXの目的です。どのように会社を変革していきたいかを思い描ける創造力がDX人材には求められています。「こうありたい」というビジョンをはっきり作ることができれば、現状の課題や具体的な解決方法がおのずと見えてくるはずです。

4-6.臨機応変な対応ができる柔軟性

DXを推進する中で当初の予想とは異なる課題に出くわす状況もあるでしょう。その際に必要となるのが、臨機応変に対応できる柔軟性です。より自社に適した進め方を見つけるため、時には最初に決めた推進計画を変えることも必要です。

 

5.DX人材の育成のポイント

DX人材を採用・育成するにあたっては、退職や休職のリスクも考慮しておきましょう。せっかく優秀な人材を確保できても、プロジェクトの途中でいなくなってしまった場合、再度人材獲得に奔走することになります。DX人材が長期的に活躍しやすいよう、定期的な評価方法や給与体系の見直しも忘れてはいけません。
以上を踏まえた上で、本章では、DX人材育成のポイントについてまとめました。「中途採用する場合」「社内で育てる場合」「外部に依頼する場合」の3つの視点から考えていきましょう。

5-1.中途採用する場合

【採用ターゲットの明確化】
募集をかける前に、まずはどういった人材を採用したいのかを明確にしてください。採用後に任せたいポジションや必要なスキル、求められる人物適性を具体的に示すことで、応募者と採用側のミスマッチを防ぎましょう。

 

【自社で働くメリットをアピール】
優秀なDX人材はどこの企業も欲しがるため、獲得競争が激化しています。待つのではなく、攻めの姿勢で自社で働くメリットをしっかりアピールしてください。最低でも、「自社の掲げるビジョン」「業務を通じて得られるやりがい」「労働環境・待遇」の3つは明示しましょう。

特に労働環境や待遇面は、一般社員と同じ内容だと魅力を感じてもらえない可能性があります。「リモートワーク可」「副業・兼業OK」「特別手当支給あり」等の項目を付与し、働き方に柔軟性を持たせた求人条件を提示することも、人材を集めるコツです。

5-2.社内で育てる場合

【リスキリングによるスキルアップ】
社内でDX人材を育てる場合、リスキリングの実施がおすすめです。リスキリングとは、新しい業務に向けて新たな知識やスキルを身に付けることをいいます。

ただし、社員はリスキリングだけに専念することはできないことに注意してください。ほとんどの場合、通常業務と並行しながら学習を進めることになるはずです。社員への負担が少なく、かつ自発的に学習できるような環境を構築しましょう。

 

【座学+OJTの組み合わせ】
座学とOJTの組み合わせは、人材育成に有効です。座学の中でも、ハンズオン講座は実際に手を動かしながら学習できますので、スキルを身に付けやすいでしょう。社外講師に講演を依頼するのも一手です。DXの経験を持つ講師がいれば、その体験談を共有してもらうことで、DX推進のイメージを具体的に持つことができます。

実務を通してDXのスキルやマインドセットを身に付けるのがOJT(On the Job Training)です。「Show(手本を見せる)」「Tell(説明する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価・指導)」という4つのステップがOJTの進め方の基本となります。DX人材として目指すべきゴールを設定し、それに合わせて評価や指導を実施しましょう。

 

【社外からも情報を仕入れる】
デジタル技術のトレンドは移り変わりが早く、社内での情報共有だけでは追いきれない可能性があります。社内だけではなく社外からも必要な情報を迅速に入手できるようにしておくことが大切です。

たとえば、社外の技術コミュニティへの参加が挙げられるでしょう。そのほかにも、各分野の第一線で活躍している人物のSNSをフォローし、常にチェックしておくのもおすすめです。

5-3.外部に依頼する場合

【DXコンサルティングの活用】
DXと言われても、そもそも何が課題なのか、どこから手をつけるべきかわからない企業も多いのではないでしょうか。その場合、DXコンサルティング会社に依頼する方法もあります。豊富なノウハウを活かし、自社のDX推進をサポートしてくれるでしょう。

 

【あくまで自社メンバーが中心】
とはいえ、DXコンサルティングの注意点も覚えておいてください。まず、コンサルタントに頼りすぎるのは良くありません。あくまで自社メンバーがDXを主導することが大切です。コンサルタントに丸投げしてしまうと進捗状況が分かりづらくなる上、DXのノウハウが社内に蓄積されません。自社でやるべき部分とサポートが必要な部分を明確にしておきましょう。

また、DXは単なる業務効率化ではなく、ビジネス自体の変革を行うため、コンサルティングをお願いする範囲や内容によってはコストが大きくなってしまうデメリットもあります。コンサルティング会社の選定は、過去の実績などを参考にしながら慎重に行いましょう。

 

6.まとめ

現在、経済成長の面や人口減少の面から、日本社会にはDXが強く求められています。また、DXは日本が国際社会の中で優位性を保っていく上でも避けては通れない課題となっています。

DX人材には、様々な知識やスキル、マインドセットが必要です。優秀なDX人材を確保するには、中途採用や社内育成、外部への依頼などの方法があります。加速するDX推進の波に乗り遅れないためにも、自社に適した方法で人材を発掘していきましょう。