COLUMN DXコラム
【農業×DX】農業DXの事例とJAの取り組み
#JA #人材不足 #農業DX日本の農業は多くの課題を抱えています。高齢化や労働力不足が進んでいる中、効率化のへ要求は避けて通れない問題となっています。多様化する消費者ニーズや後継者不足に対応するには、農作業を省力化しつつも品質と生産量を向上させることが重要となります。こうした状況下で、農業DX(デジタルトランスフォーメーション)は新たな希望の光となるかもしれません。本記事では、農業DXの目的やスマート農業との違いに加え、農家の課題を解決するための具体的なステップや、JA(農業共同組合)の取り組みについて紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
1.農業DXについて
農業DXとは、ロボットやAI、IoTなどのデジタル技術を活用して、農業の生産性や流通効率、農業環境を改善することです。効率的な営農を行いつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業変革を目的としています。
デジタル技術を活用し、資材、農業者、農業団体、卸・物流、加工・食品、小売・外食、そして消費者のデータを共有することでバリューチェーン全体に変革を起こし、農業を巡る諸課題を解決することが農業DXの本質といえるでしょう。
2.農業DXとスマート農業の違い
農業DXとスマート農業は、両方とも農業にテクノロジーを導入することではありますが、その焦点や範囲には違いがあります。
〇農業DX(デジタルトランスフォーメーション)
・範囲: 農業全般に対するテクノロジーの導入です。これには、生産管理だけでなく、サプライチェーン、販売、マーケティング、データ解析なども含まれます。
・目的:生産性の向上、コスト削減、持続可能性の強化など、農業経営全体を改善することが主な目的です。
・テクノロジー:IoT、ロボット、AI、ブロックチェーン、ビッグデータ、ドローンなど、多様なテクノロジーが活用されます。
〇スマート農業
・範囲: 主に農場や畑での作物生産に焦点を当てたテクノロジーの導入です。
・目的:作物の生産量と品質を高めることと、資源(水、肥料など)の効率的な利用が主な目的です。
・テクノロジー:IoTセンサー、自動化機器、環境モニタリングシステム、AIによる画像解析などが一般的に使われます。
農業DXは、農業の生産現場に限らず、流通、小売り、消費者、農業行政を含めたデジタル化を指します。
一方でスマート農業は主に生産現場でデジタル技術を活用することを指します。農業DXの取り組みの一環として、スマート農業が存在すると捉えるといいでしょう。
3.農業DX構想とは!?
農林水産省は、令和3年3月に「農業DX構想」を発表しました。農業DX構想とは、デジタルテクノロジーを導入することで生産性の向上、コストの削減、持続可能性の強化などを目指すものです。 特に高齢化社会が進む日本では、労働力不足の解消や新しいビジネスモデルの構築が重要視されています。
ここでは、農業DXを推進している背景と目的から、農業DX構想について理解を深めていきましょう。
3-1.農業DXを推進している理由
農業DX構想の大きな目的としては、デジタル技術の導入を進め、消費者のニーズに応えながら、将来にわたって食料を安定供給できる農業を発展させることです。しかし、日本の農業は、高齢化による人手不足・後継者不足、輸入品との価格競争といった課題を抱えています。
このままだと生産量の減少が更に深刻な問題となるでしょう。消費者のニーズに応えることもできず、緊急時に食糧不足にもなりかねません。こうした事態に陥らないためにも、農業人材は確保しつつ、デジタル技術の導入も進め、一人当たりの農業生産性を高めることが重要です。
3-2.農業DXの導入で実現する未来像
デジタル技術によって重労働を軽減し、省力化・自動化を図ることで、上記で述べた生産者の高齢化や人手・後継者不足などの課題の解決が期待できます。また、農作業の効率化を図ることができ、コスト削減にもつながります。
さらに気象データや過去の農作物データ、生産データ等の様々なデータを活用することで、収獲量の予測が可能になり、高品質な農作物の生産や生産量の安定、消費者の需要に合わせた生産等が可能になります。これは同時にフードロスを減らすことにもつながります。このように、農業DXの導入は人材・労働力不足の問題解決だけでなく、質の向上やデータに基づいた意思決定が可能になるなどの多くのメリットをもたらします。
ロボットやAI、IoT等の導入が進みDXが促進されれば、消費者ニーズに応えながらも従来の農業ではできなかった、少人数による大規模な農場生産の実現や、経験の少ない農業者でも品質の高い作物を生産することなどが可能となるでしょう。
4.農業DXの現状
日本の農業DXはどれくらい進んでいるのでしょう。「生産現場・農村地域・流通・消費」の観点から解説します。
1.生産現場のDX
生産現場においてDXを実現するための方法は非常に多種多様ですが、その中でも特に注目されている取り組みが、AIやロボット、IoTなどのデジタル技術を活用したスマート農業です。スマート農業の推進と普及を目標とし、農林水産省と農研機構による「スマート農業実証プロジェクト」が令和元年度から始まり、これまで全国217地区において実証を行っています。農作業の省力化や自動化、効率化が進んでいることに加えて、IT企業の新たな活躍の場としても期待されています。
こうした取り組みにより、現在多くの地域でドローンや自動走行の農業機械等の実証実験が進んでいます。さらにハードウェアだけでなく、センサーを活用したデータ収集、土壌評価など多くの指標を利用した農作物の生産が行なわれつつありますが、まだテスト的な導入が多く、本格的に実装されているケースは多くはありません。
2.農村地域のDX
農村地域では、農業振興のための施策として、人材不足で困っている農村と、地方へ行きたい都市部の若者をつなぐマッチングサービスが例として挙げられます。こうした都市と地方を繋ぐプラットフォームの形成により、農業生産や人材不足、農地保全などの課題解決につながることが期待できます。
また、農業DXを促進していくうえで、農村地域全体でバリューチェーンを改善するモデルの構築や基盤整備は必要不可欠です。しかし、こうしたコンセプトには共感するものの、参考となる実例が見つけられず、具体的な企画やプロジェクトに移すことができなかったり、他の分野におけるステークホルダーと接点がなく、そうした人々と連携して合意形成を進めることが困難な地域があります。こうした地域において農村DXの推進には、農業者や農政担当者、インフラの運営や地域づくりに関わる人、地域住民といったステークホルダー同士の交流を活発にするような仕組みづくりが必要になります。
3.流通・消費のDX
農業バリューチェーンにおける流通分野のDXは「農産物流通DX」と称されることもあります。日本の農産物の流通は全国各地の卸売市場を介する「市場流通」と生産者・消費者が直接やり取りする「市場外流通」に大別できます。
青果等の農産物は新鮮な状態で販売する必要があり、売れ残ればフードロスとなって収益が悪化します。しかしながら、現状の市場流通は生産者と小売り業者の間にいるステークホルダー達が相互に情報をうまく共有できておらず、需給調整の不全により、大量のフードロスや物流の無駄が発生しバリューチェーン全体の収益が低下する構造となっています。この問題を解決するために、トレーサビリティの確保やブロックチェーンの活用によって農産物流通管理の一元化を更に進めていく必要があります。
5.農業DXの事例4選
1.水門管理システム
農業において、水の管理は非常に重要ですが、管理に手間がかかる場合もあるのが現状です。水門管理システムを導入すれば、タイマー機能と水位センサーを組み合わせたスケジュール設定が可能となり、遠くにある水門も、手元のタブレットやパソコン、スマートフォンで操作可能となります。その結果、水門調整のための見回りに費やしていた労力が削減されると共に、効果的な水門管理により雑草も減るため、除草剤のコスト削減にもつながります。
2.施設栽培におけるデータ管理
施設栽培は、病害虫防止や収量向上において、ビニールハウス内部の温度・湿度・CO2濃度などを管理することが重要なため、それらを正確に測定する機器を導入することで、平均単収は大きく増加します。また、他の農業者のデータも活用できる仕組みを作り、より大きな収益を上げることも可能です。
3.農作物を直接消費者に販売できる仕組み
生産者と消費者が直接繋がるプラットフォームの構築も実現されています。通常の販売ルートでは、生産者は小売価格のほんの数割しか利益を得ることができませんが、システムを上手く活用すれば、消費者に対して直接販売が可能になり、利益向上を図ることができます。また、全てやりとりがオンライン上で完結するため、生産者が直接販売に出向く必要がなくなるメリットもあります。
4.エネルギーの自給自足と販売ができる営農型太陽光発電
営農型太陽光発電とは、農地に支柱を立て太陽光発電設備を設置し、農業と発電を同時に行う取り組みで、自家発電や売電による収入を得られる等のメリットがあります。この仕組みを上手く使えば、自家発電をハウス内の暖房に利用し、年間数百万円規模の電気代を削減できる場合もあります。また、自家発電のため、経費削減を気にせずに出荷等の空調設備を利用できるため、労働環境の改善にも繋がっています。
6.農業DXにおけるJAの取り組み
JA(農業共同組合)グループでは、「農業者の所得増大」「農業生産の拡大」「地域の活性化」を目標とする、「創造的自己改革」の実践が進められており、研究会やセミナーの開催を通して知見共有を図るなど、農業DXの推進活動が行われています。
DX推進の運営主体に最も必要とされていることは、利用するDX技術に精通していることではなく、ステークホルダーを繋ぐネットワークを有していることや現場力を有していることです。スマート農機のシェアや生産・流通におけるデータの活用にしろ、地域のまとめ役がいないことには成立しません。誰もが取り組みやすい、誰でも利用できるようなDXを普及させていく役割は、協同組織であり、かつ地域で総合事業を営むJAが強みを発揮できる領域であるといえるでしょう。
7.まとめ
農業は私たちの暮らしを支える上で重要な産業ですが、後継者不足や労働力不足といった問題が深刻化しています。こうした問題を解消するため、農業DXが注目されています。DXを活用することで、効率的に農作業に従事できるため、少ない人数でも業務が可能になります。
しかし、農業や食関連産業は、他の産業と比べても特にデジタル技術に苦手意識を抱いていたり、関心が薄かったりする人が多い傾向にあるため、地域全体でDXを行うためには情報共有やステークホルダー間のネットワーク強化が必要不可欠です。この役割を担うのに最適な組織がJAであり、JAが地方自治体や関係省庁を巻き込みながら農業DXを推進しやすい環境作りを行えるかどうかが重要となってくるでしょう。