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2024.01.30 保険業界

保険業界のDXとは?国内外の生命保険会社でのDX推進事例

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AIなどのテクノロジーを活用して業務を効率化したり、新たな商品を生み出したりする取り組みがDXです。少子高齢化や家族形態の変化などによって多様化する顧客ニーズにいち早く対応するためには、DXの活用が欠かせません。本記事では、保険業界におけるDXの重要性や国内外のDX推進事例について解説します。

1.保険業界のDXとは?

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、様々なテクノロジーを駆使して業務をデジタル化したり、新商品を開発したりする取り組みのことです。保険業界であれば、契約手続きの簡素化や顧客のニーズに合わせた保険プランの提案などが挙げられます。
海外では「保険(Insurance)」と「テクノロジー(Technology)」の2つの単語を組み合わせた「インシュアテック(InsurTech)」という概念が注目され始めました。最新技術を活用し、マーケティング改善などに役立てられています。保険業界でDXを進めるためには、このインシュアテックを理解することが大切です。

1-1.なぜ保険DXが重要なのか

では、なぜ保険DXが重要なのでしょうか。ライフスタイルや働き方の多様化が進む今、顧客が保険に求めるものも変化しています。保険業界も変革の時を迎えていると言えるでしょう。本章では、保険DXの重要性について、「ニーズのスピーディーな把握」「激化する競争への対応」「高齢者向け商品の開発や提供」という3つの視点から考えていきます。
・ニーズのスピーディーな把握
変化する顧客ニーズにいち早く対応するには、顧客の動向をリアルタイムで吸い上げる必要があります。そこで重要なのが、保険DXの推進です。オンラインチャネルやモバイルアプリを活用して顧客データを取得することにより、顧客一人ひとりのニーズに合わせたサービスやプランの提供が可能となります。

 

・激化する競争への対応
現在の保険業界では、熾烈な顧客獲得競争が繰り広げられています。他社とは一線を画したサービスで差別化を図らなければ、生き残っていくのは難しいでしょう。そこで必要となるのが、保険DXです。デジタルチャネルやオンラインプラットフォームを活用すれば、より利便性の高いサービスを提供できます。また、データ分析によってターゲットを絞ったマーケティングも可能になります。

 

・高齢者向け商品の開発や提供
少子高齢化が進む日本においては、今後ますます医療や介護への需要が高まっていきます。保険業界でも、ライフステージや健康状態に合わせた保障プランなど、顧客の個人的なニーズに柔軟に対応できるサービスや商品の提供が求められるようになりました。そこで活用したいのが、保険DXです。顧客情報などをデータで管理することで、高齢者向け商品の開発や提供に繋げられます。

1-2.保険DXのメリット

保険DXは、顧客と保険会社の双方にとって様々なメリットがあります。例えば、書面でやりとりしていた加入手続きや請求情報の確認がオンライン上で完結できるようになれば、顧客の利便性向上に繋がるでしょう。AIやチャットボットを活用した24時間体制のカスタマーサポートは、営業時間を気にせずいつでも相談できます。

保険会社からすれば、手続きや事務処理の自動化は、業務効率のアップに繋げられます。人的エラーも大幅に減らせるでしょう。また、これまで人間が行っていた作業を自動化できる分、人手不足の部署に人材を配置したり、より創造的な業務に専念することができます。人手不足が著しい保険業界には、早急なDXが必要とされています。

 

2.生命保険会社でのDX推進事例

保険会社で実際に行われたDX推進事例について、日本と海外での取り組みに分けて紹介します。

2-1.日本における取り組み

【オンライン上で完結できる保険サービス】
オンライン保険サービスを使った申込みや手続きでは、本人確認書類などの重要書類をデータ化できます。これにより、情報の流出や資料の紛失リスクを大幅に減らすことが可能です。また、いつでもどこからでもインターネット上で手続きを完結できるため、顧客の利便性も高められます。希望する保険商品の比較や見積もりも簡単にできる他、利用したいサービスを自分流にカスタマイズすることも可能です。

 

【保険金査定の自動化】
データ化した契約や損害情報を元に、AIが査定を行うことで、スピーディーかつ正確な結果の算出が可能です。査定は保険会社にとって大きな割合を占める業務であるため、自動化によって従業員の作業負担を大幅に減らせます。また、AIが査定することにより一貫性や客観性が保たれ、公平な査定結果の提供にも繋がるでしょう。

 

【非接触型セールスの確立】
新型コロナウイルスの拡大に伴い、非接触型の対応を行う保険会社も増えました。従来通りの対面セールス、遠隔でも対応できるリモートセールス、対面とリモートを組み合わせたハイブリッドセールスなど、複数のセールス方法が登場しています。また、オンライン上で本人確認ができる体制も整えられてきました。スマートフォンのカメラ機能で顔写真と本人確認書類を撮影し、アップロードして承認を待つという仕組みです。

 

【社会情勢に合わせた企業活動の変革】
金融法制度の見直しや新たな規制の導入など、社会をとりまく情勢はめまぐるしく変化しています。保険業界も例外なく変革が必要であり、社会情勢に合わせた企業活動が求められるといえるでしょう。そこで、健康促進に向けたプログラムと保障のセットプランの開発や医療ビッグデータに基づく引き受け基準の見直しなど、提供してきた商品やサービスの価値をさらに高める取り組みが進められています。また、従業員の働き方改革にも注力し、遠隔セールスも積極的に行われています。

 

【データを活用したリスク管理と対策】
経済・社会状況の悪化や自然災害の増加など、私たちは様々なリスクと隣り合わせで生きていかなければなりません。安全な生活を守るために、保険はなくてはならない存在としてますます重宝されるでしょう。現在、世の中に起こり得るリスクをデータで繋ぐ取り組みが進められており、その結果得られた新たなデータは、保険を通じた保障対策に活用できます。

 

【連係システム統一による業務効率化】
DXを進めるためには、多様なサービスやデータのスムーズな連係が必須です。しかし、保険会社ごとに導入しているシステムが異なるため、使い方や運用方法、保守点検なども企業ごとに個別の対応が必要でした。そうした状況を受け、現在、保険業界における共通連係システムの開発が進められています。システムが統一されれば、使い方や運用方法などにも共通性が保たれ、業務効率化が実現されるでしょう。

 

【会員サイトを活用したポイント付与と還元】
保険業界は、新規顧客の獲得が難しいとされています。競合企業との差別化を図るために、様々な付加価値を付ける企業も増えてきました。そうした取り組みの一例が、ポイント還元です。たとえば、会員サイトに健康診断結果をアップロードしたり、ウェアラブルデバイスで計測した数値を登録したりするとポイントが付与され、集めたポイントを使って、様々な商品を購入する際に割引を受けられる仕組みが提供されています。

2-2.海外における取り組み

【ITを駆使したリスク回避や業務自動化】
海外の保険業界でも、ITを駆使した取り組みが実施されています。多様な顧客情報を取り扱う保険業界は、サイバー攻撃に晒されやすいなどのリスクを孕んできました。詐欺行為や情報漏洩などの危険を回避するため、AIや機械学習を活用した不正請求検出などのセキュリティ対策が注目されています。

 

【アプリを通じた医療機関などの紹介と保険の提案】
中国では問診の結果を分析し、ユーザーにとって最適な医療機関と医師を紹介するアプリが登場しています。もちろん問診自体もアプリ上にて無料で行われます。従来では医療機関を受診する際、サービスや医師の質を見極めるのは容易ではありませんでしたが、このアプリを使えば医師の経歴や論文、口コミなどを簡単に確認できるため、ユーザーはより良い医師を選択しやすくなります。また、いつどこでどんな症状が出たのか、どの医療機関を受診したのかといった行動データがアプリ上に記録されることも、大きな特徴です。そうしたデータを使うことで、利用者のニーズに合わせた保険プランの提案や相談対応が可能となっています。

 

【保険アプリでの迅速なサービス提案と決済】
住宅保険や自動車保険、定期保険など様々な種類の保険を取り扱う総合保険サービスアプリが登場しています。スピーディーな対応とシンプルな料金設定が人気で、具体的には、90秒間で一人一人に合わせた保険サービスを提案し、約3分で決済まで完了できます 。キャッシュバックなどの制度も利用できる上、手数料の一部をユーザー自身が選んだ非営利団体に寄付することもできます。他に類を見ない製品で、今後、業界全体のDXに大きな影響を与えていくでしょう。

 

3.保険業界のDX推進における課題

顧客と保険会社の双方にとってメリットの多い保険DXですが、現実ではなかなか思うように進んでいません。本章では、保険業界でDXを推進する際の課題を解説します。

3-1.デジタル化に不慣れな顧客への対応

日本では高齢化が進んでおり、デジタルサービスに不慣れな顧客は今後ますます増えていくと考えられます。デジタル化やオンライン化は便利な反面、操作が難しいと感じる人も少なくありません。また、人間でこそ可能な温かく柔軟な対応を求める人にとっては、デジタルサービスによる対応は機械的で冷たい印象を持たれてしまいます。DXを行う背景やメリットの説明、サポート体制の整備など、デジタル化に不安や疑問を残す顧客を置き去りにしない対応が必須といえるでしょう。

3-2.レガシーシステムや伝統からの脱却

古くから存在している保険会社においては、独自の業務システムがすでに構築されています。そこから別のシステムへ移行するのは莫大な費用がかかるため、簡単には決断できません。また、保険業界は大きな数字を取り扱う対人業務が中心であり、できるだけミスを減らす仕事のやり方が伝統として根付いています。ミスを恐れるあまり、慣れ親しんだシステムや仕事から脱却することに抵抗を感じる従業員も少なくないでしょう。なるべくシンプルで使いやすく、業務内容の変化に柔軟に対応できるシステム選びが重要です。そして、マニュアル整備やトレーニングなど、従業員へのIT教育も忘れてはいけません。

3-3.問題点の洗い出しと適切なシステム選択

一口にDXといっても、単にシステムを変えればいいわけではありません。自社がどんな課題を抱えているのか、問題点を洗い出す必要があります。そのためにも、顧客や従業員、関係各所とのコミュニケーションが必須です。解決すべき課題が見えてきたら、優先順位を設定して適切なシステムを選択し、効果的なDXを目指しましょう。

3-4.業務プロセスの見直しと人材配置

DXにあたって、それぞれの業務プロセスの見直しが必要です。業務の中には、似たような作業が重複しているものや無駄なフローも少なくありません。そうした業務がDXによる業務効率化の対象になります。また、DXを経て人材配置を考え直すことも必要です。自動化できる業務が増えることで、人手が足りていない部署へ集中的に人材を配置することが可能になるからです。

 

4.まとめ

国内外の保険会社において、顧客満足度向上や業務効率化に関する様々な取り組みが行われてきました。実際にインターネット上で完結できる手続きも増えています。ただし、DXがなかなか進んでいない保険会社が多いのも現実です。多岐にわたる顧客ニーズに応えるために、保険業界全体でより一層DXを進めることが求められています。