COLUMN

2024.02.16 DX人材育成

DX時代のキーワード「リスキリング」の重要性とその実践方法

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DXの推進に伴い、「リスキリング」という言葉を耳にする機会が増えてきました。リスキリングとは、今後必要と想定される業務のために新しい知識やスキルを身につけることです。しかし、なぜリスキリングが重要とされているのか、自社でどのように進めていけばいいのかとお悩みの方も少なくありません。本記事では、DXにおいてリスキリングが注目されている理由や、リスキリングが果たす役割、実践方法について解説します。ぜひ参考にしてください。

1.リスキリングとは何か?DXにおけるその役割

まず、リスキリング(Re-skilling)の正しい意味を理解しておきましょう。経済産業省によると、リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応して、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。
近年、デジタル技術を駆使してビジネスの在り方や企業風土を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが活発化しています。それに伴って新しい業務が増え、仕事の進め方が大きく変わるケースが出てきています。そうした変化に対応するため、現在リスキリングという考え方が浸透しつつあるというわけです。

1-1.アップスキリングとの違い

アップスキリングとはスキルアップのことで、すでに持っている能力を高めることに重点が置かれています。具体的には、業務に関係する資格取得などが挙げられるでしょう。
一方で、リスキリングはこれまでにない新しい知識やスキルを身に付けるのが主な目的です。そのため、現状の職種とはまったく関係ない分野の学習が必要になる場合があります。

1-2.アンラーニングとの違い

アンラーニングとは「学習棄却」を意味する言葉です。今持っている知識やスキルの中には、新しいビジネスモデルにそぐわないものもあるでしょう。こういった知識を捨て、既存の価値観や手段に縛られず新たな知識やスキルを柔軟に取り入れるのが、アンラーニングの主な目的です。
「新しい知識やスキルの習得」という点でアンラーニングとリスキリングは共通していますが、アンラーニングの場合は「既存の知識を捨てること」に重点が置かれています。両者をうまく組み合わせながら、学びを深めていくことが大切です。

1-3.生涯学習との違い

生涯学習とは、文字通り生涯にわたって様々な分野の学習を行うことです。家庭や学校での教育はもちろん、ボランティア活動、カルチャーやスポーツに関連する活動なども生涯学習に含まれます。生涯学習はより充実した人生を送るのが主な目的で、年齢や学歴、仕事の有無などを問わず、誰にでも学びの機会が開かれているのが大きな特徴といえるでしょう。
一方、リスキリングはあくまで仕事に向けた知識やスキルの習得に特化しています。今の仕事をこなしながら学習を進める点も生涯学習とは異なります。

1-4.リカレント教育との違い

リスキリングと同時に語られる機会が多いのが、リカレント教育です。リカレントは「循環する」「繰り返す」と訳され、教育の期間を終えて就労した後、自分が必要とするタイミングで仕事を離れ、教育機関などで学び直すことを意味します。
一方で、リスキリングは仕事を離れることはなく、企業に在籍しながら新たな知識やスキルの習得を目指します。また、リカレント教育が自発的な学びであるのに対し、リスキリングは企業側が従業員に対してスキルを習得するよう働きかけるのが大きな違いです。

 

2.リスキリングが注目されている理由

なぜ今リスキリングが注目されているのでしょうか。その理由を、3つの視点からご紹介します。

2-1.DXで新たに生まれる仕事への人材確保

DXを推進するには、現状使っているシステムや業務の進め方を大きく変えなければなりません。そのため、今後求められるスキルにも必然的に変化が起こります。例えば、倉庫での仕分け作業をDX化したとすると、人の代わりにロボットが仕分けをしてくれるようになるでしょう。その代わりに、ロボットの管理やメンテナンス、機能改善といった新しい業務が発生します。
このように、DX化によって新たに生まれる業務を遂行するためには、そのための知識とスキルを身につけた人材が欠かせません。こうした人材を確保する手段として、リスキリングへの注目が高まっているのです。

2-2.少子高齢化への対策

少子高齢化が進む日本では、労働人口の減少にも拍車がかかっています。総務省によれば、2021年の労働力人口は7,450万人だったのに対し、2050年には5,275万人にまで減少すると報告されました。労働人口の減少は、国内の生産性が大きく下がることを意味します。
そこで重要になるのがリスキリングです。大多数の高齢者を少数の労働者が支えなければならない未来に備えて、デジタル技術を駆使した業務効率化や利便性向上が求められています。リスキリングによってデジタルに関する新しい知識とスキルを身につけることは、少子高齢化対策にも有効です。

2-3.国内外における注目度の高さ

2020年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて「2030年までに地球人口のうち10億人をリスキリングする」という宣言が出されたことで、世界的にリスキリングへの意識が高まりました。
また同会議では、AIやIoTによる第4次産業革命により8,000万件の仕事が失われ、代わりに9,700万件の仕事が新たに誕生するとの予測も示されました。産業構造の変化による失業リスクに備えるために、リスキリングは必要です。
また日本国内でも、岸田内閣が提唱する「新しい資本主義」の実現に向け、リスキリング支援を経済政策の中に盛り込むことが政府によって表明されました。「新しい資本主義」における構造的賃上げを達成するため、リスキリング支援に5年で1兆円を投じるという内容が検討されています。今後も、ますますリスキリングへの注目は高まっていくでしょう。

 

3.リスキリングを推進するメリット

ここまで、リスキリングの役割や注目されている理由について解説しました。では、リスキリングを推進するメリットとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。3つの視点から考えていきます。

3-1.人材不足解消と採用コスト削減を実現

大多数の企業においては、デジタル技術に精通した人材が強く求められているものの、そのほとんどの企業が、人材不足に悩まされているのが現実ではないでしょうか。加えて、そうした人材は専門性が高いため、一般社員に比べて採用コストがかかりがちです。
しかし、リスキリングに成功すれば、必要な知識やスキルを自社の既存社員に身につけてもらうことが可能です。人材不足を解消できるばかりではなく、採用コストも削減できるのは、企業にとって大きなメリットといえるでしょう。

3-2.従業員のキャリア形成をサポート

リスキリングは、企業側が従業員に対して学びを促すのが一般的です。リスキリングを通して従業員に学びの場を提供することは、従業員の将来的なキャリアの選択肢を増やすことにつながります。活躍できる分野が広がれば、従業員の労働意欲やエンゲージメント向上も見込めるでしょう。
また、リスキリングがうまく進むと、従業員の間で「自ら学ぼう」とする姿勢が見られるようになります。その結果、上司からの指示を待たずとも自ら考え、主体的に行動できる人材を増やすことが可能になります。

3-3.新規事業などにつながるアイデアの創出

リスキリングに取り組んだ従業員は、知識やスキルだけではなく、新しい価値観や考え方にも触れています。広い視野で物事を考えられるようになるため、新たな事業アイデアが生まれる可能性が高まるでしょう。
激しい競争の中で企業が生き残っていくためには、時代や顧客のニーズに即した経営戦略が必須です。リスキリングに成功した従業員が増えれば、積極的な新規事業への挑戦や業務分野の拡大も検討できるかもしれません。

 

4.リスキリング戦略の立案と実施

リスキリング戦略の立案と実施方法について、3つのステップに分けて解説します。

4-1.スキルの洗い出しと対象社員の選定

リスキリングの対象は、誰でも良いわけではありません。リスキリングの成否は、どの部署からどのような社員を選定するかにかかっています。まずは今後自社で必要となるスキルをしっかり洗い出しましょう。

4-2.教育プログラムの決定と学習環境の構築

求められるスキルの洗い出しと対象社員の選定が終わったら、具体的な教育プログラムの中身を考えていきます。ポイントは、「When(いつから、いつまで)」、「What(どのような内容で)」「How(どのような方法で)」の3つです。プログラムの構成や学習の順番も慎重に検討しましょう。
学習コンテンツは、可能であれば自社オリジナルのものを用意することをおすすめします。単にデジタルの知識を身に付けてもらうだけなら一般の参考書などを活用できますが、学んでほしい内容に自社独自のナレッジやノウハウが含まれる場合、市販のものでは対応できません。社内研修などで使用したスライド資料などを、そのまま教材や動画学習用のコンテンツに転用するのが近年のトレンドです。
また、学習環境の構築も忘れてはいけません。選ばれた従業員は日々の業務をこなしながら学習を進める必要があるため、業務負担になりにくい環境を整えることが大切です。オンライン講義やeラーニング、外部講師の招聘など、幅広い選択肢を用意しておくと、従業員は自分に合った学びのスタイルを選びやすいでしょう。就業時間中に学習時間を設けるなどの配慮も必要です。
また、従業員のモチベーションを維持するための施策も大切です。リスキリングの目的やメリットを従業員としっかり共有し、学習に対して前向きになってもらう必要があります。企業側から一方的に学習を強制するようなやり方では、モチベーションはどんどん下がってしまいます。場合によっては、習得度に応じた社内ランキングの作成や特別手当の給付などを検討しても良いかもしれません。

4-3.参加社員の声をヒアリングしながら実践

教育プログラムの決定や学習環境が整ったら、いよいよ実践開始です。リスキリングは1回行ったらそれで終わりではなく、継続した取り組みが欠かせません。企業側は定期的に社員にヒアリングを実施し、プログラムへのフィードバックをしてもらう必要があります。その声を活かしてプログラムを継続的に改善できれば、社員の学習モチベーションも維持されるでしょう。

 

5.まとめ

DXを推進することで、これまでになかった新しい業務が生まれる可能性は高いです。そうした業務に備え、新たな知識や技術を身に付ける取り組みがリスキリングです。日本では少子高齢化が進み、大多数の高齢者を少数の労働者が支えなければならない時代がすぐそこまで迫っています。リスキリングで身につけたスキルによって業務効率化を行い、1人あたりの業務負担を減らすことが期待されています。また、従業員の将来的なキャリアの選択肢を広げるなど、リスキリングにはメリットも多いです。従業員の学びの意欲を尊重しながら、将来に備えてリスキリング施策を検討してみてはいかがでしょうか。