COLUMN

2024.01.26 官公庁業界

【自治体・行政×DX】2023年最新事例をご紹介

#IT化 #ペーパレス化 #自治体 DX #行政 DX


住民の利便性向上や職員の業務負担を減らすべく、自治体や行政機関に求められているのがDXです。政府の発表により、2025年度末までに自治体ごとに異なる業務システムを統一・標準化するという目標が掲げられました。 しかし、電話や紙ベースによる業務など、古い業務体質が根強く残る自治体のDXは遅々として進んでいないのが現実です。一方で、DXによる業務改善を実現している自治体もあります。本記事では、自治体DXの先進事例や成功のポイントについて解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

1.自治体DXとは

「DX」とは、「デジタルトランスフォーメーション」の略です。自治体では、これまで電話や紙をベースとして業務が行われていました。これらの業務をデジタル化し、行政サービスの質と住民の利便性を向上させるのが自治体DXの主な目的です。また、職員にかかる業務負担を減らしたり、働き方の選択肢を増やしたりする意味合いもあります。

1-1.自治体DXの現状と問題点

しかし、現実にはなかなか自治体DXは進んでいません。現状のままでも業務遂行そのものには問題がないからです。また、DXが行われる際は、現在の業務のやり方が大きく変わるため、何らかのトラブルが起こるリスクは避けられません。民間企業では当たり前のPCスキル、ITスキルを習得していない自治体職員も少なくないため、トラブルが発生する確率も比較的高いと言えるでしょう。

1-2.自治体DXを行う必要性

では、なぜ自治体DXが必要なのでしょうか。最大の理由は、労働力人口の減少と高齢化によって行政サービスへの需要が高まることです。2040年頃には、現在の地方公務員の中で多数の割合を占める団塊ジュニア世代がほとんど定年退職すると言われています。公務員の数が減る一方で高齢者は増加し続けるため、大多数の高齢者を少数の公務員が支えなければなりません。将来的な職員の業務負担を減らす意味でも、自治体DXによる業務効率化は早急に取り組むべき課題です。
一方、住民目線で考えると、手続きのために直接窓口に出向くのは手間がかかります。長時間待たされることも多く、自治体や行政機関での手続きは大きな負担になりがちです。そのため、電話や紙などの非効率的なアナログ業務から脱却し、デジタル技術を駆使した利便性の高い行政サービスの提供が求められています。

 

2.自治体DXの先進事例

数ある地方自治体の中から、DXに成功した先進事例を紹介します。「採用・人材確保」「行政手続き」「職員の働き方改革」「その他」の4つの視点を基に見ていきましょう。

2-1.採用・人材確保

【Web面接の実施】
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、オンライン会議やWeb面接、リモートワークを取り入れる民間企業が増加しました。その流れを受けて、Web面接を行う自治体も増えています。受験生にとっても、自宅から面接を受けられるのは大きなメリットです。面接会場に向かう時間や交通費も節約できるため、遠方に住んでいてもエントリーしやすいでしょう。自治体側から見れば、Web面接は応募者の枠を広げ、多様な人材を確保しやすくなります。どちらの視点から見ても、時間と費用を抑えた効率的な採用活動であると言えます。

 

【採用枠にデジタル職を追加】
公務員試験において、これまでITスキルが求められることはありませんでした。そのため、パソコン操作の基本的な知識を持ち合わせていない職員も少なくないのが現状です。こうした状況の打開策として、採用枠にデジタル職を追加する自治体も登場しています。IT関係の資格に合格しているなどの条件を満たす必要はありますが、こうしたデジタル職採用が普及すれば自治体DXの早期実現も不可能ではありません。

 

【ITコンサルティング企業にDXを委託】
DXには、ITに関する様々な専門知識を持った人材が必要です。しかし、職員が通常業務をこなしながらDXを推進するのは現実的でないケースも多いでしょう。そこで考えたいのが、DX推進を民間のITコンサルティング企業へ委託することです。こうした企業はアドバイザーとして課題の洗い出しやDX施策の立案を行い、DX化に向けたサポート体制を構築しています。また、民間企業に委託できるだけの経済的余裕がない自治体の中には、所属している都道府県からIT専門家を派遣してもらっているところもあるようです。

 

【デジタルに強い高齢者の育成と指導】
一般的に、デジタル化に抵抗感を示すご高齢の方は多いのではないでしょうか。高齢化がますます進む中で、デジタル機器を使いこなせる高齢者の存在は非常に貴重です。そこで、スマートフォンやマイナンバーカードなどの使い方をマスターした高齢者の方を育成し、その方にデジタルに不慣れな高齢者に指導していただく取り組みが行われています。高齢者同士、同じ目線に立ってコミュニケーションが取れるため、互いにストレスを感じにくいのが大きな魅力です。

 

【ITベンチャー企業と連携してDXを推進】
近年では、ITを駆使した業務に強いベンチャー企業が次々と登場しています。これらの企業と連携しながらDXを進める自治体もあるようです。属する都道府県の内外から、AI技術やビッグデータの活用などのノウハウを持つ企業や人材を誘致し、課題解決に向けた取り組みを実施しています。

2-2.行政手続き

【ワンストップで対応できる窓口システムの開発】
役所や役場は「窓口に出向いて申請が必要」「複数の手続きのために窓口を転々とする」「長時間待たされる」といったような、手間のかかる面倒な場所だというイメージが浸透しています。実際、昔ながらのやり方で手続きを行っている自治体も少なくありません。そこで、来庁した住民にヒアリングしながら職員が書類を作成する取り組みや、複数の手続きを1ヶ所で完結できる窓口システムの開発などが進められています。こうした取り組みは手続き時間の短縮や顧客満足度の向上に繋がり、届出書類の記入漏れやミスの防止にも役立ちます。

 

【ペーパーレス化による業務効率化とリスク回避】
事務処理の効率化や住民情報のスムーズな管理に向けて、文書管理システムによるペーパーレス化も進められてきました。こうしたシステムを導入すると書類の検索が容易にでき、1枚1枚書類を探す手間を省略できます。また、紙の書類は紛失のリスクが伴いますが、電子書類であればそうしたリスクはありませんし、保管のスペースも必要ありません。また、システムに電子決済機能を付与する取り組みも開始されています。今までは現金以外の支払いに対応していなかった各種税金が電子決済サービスを通じて納付できるようになり、住民の利便性向上も目指せます。

 

【マイナポータルを活用した電子手続き】
マイナポータルを利用した電子手続きの範囲拡大も行われています。オンライン上で手続きできることから、利用者が時間や場所を選ばずに申請できるのは大きなメリットです。児童手当や乳幼児医療費の助成なども、すでにオンライン手続きが始まっています。手続き範囲は今後も拡充されていくでしょう。

 

【問い合わせ対応にチャットアプリを導入】
自治体にかかってくる電話内容の約6割は、問い合わせだと言われています。しかし、今までは役所が開いている時間内でなければこうした問い合わせに対応することができず、相談者と職員の双方にとって大きな制約がかかっていました。そこで現在、チャットアプリの導入が進められています。時間を気にせずいつでも問い合せできますし、画像やURLの共有など、視覚的に分かりやすいやり取りもできるため、業務効率化と顧客満足度の向上につながっています。

 

2-3.職員の働き方改革

【サテライトオフィスでのテレワーク】
市区町村内にある空き施設や会議室などをサテライトオフィスとして活用している自治体もあります。本庁以外にもオフィスができることで、職員が通いやすい場所で働くことが可能になります。庁内ネットワークへのアクセス環境を整えれば、本庁にいるのと変わらないクオリティで業務をこなせるでしょう。

 

【勤怠管理のペーパーレス化】
タイムカードなど、紙媒体による勤怠管理からの脱却を目指した取り組みも進んでいます。きっかけは、新型コロナウイルス感染症の拡大です。テレワークを実施するにあたって、紙を使った勤怠管理は大きな障壁になります。そこで、ネットワーク上で勤務を一元的に管理するシステムの導入が進められました。

 

【ワーケーションによる新しい働き方】
仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせたワーケーションは、新しい働き方として注目されている概念です。ワーケーションとは、簡単にいえば旅行先で仕事をしつつ、余暇も楽しむことを意味します。インターネット環境が整っていて、空路や陸路などの交通アクセスが充実しており、観光スポットにも恵まれている市区町村であれば、ワーケーションを前面に出して、企業や人材を誘致することが可能です。

2-4.その他

【ドローンを活用した海岸の安全確認】
海沿いの都市では、海岸での安全確認にドローンが使われているところもあります。ドローンには最新型のカメラとマイクが搭載されており、ライフセーバーと同様のパトロール活動が可能です。ライフセーバーの数が足りていなくても、ドローンが代わりに海岸の様子を見守ってくれます。人目につきにくい場所や声が届きにくいところのパトロールにも効果的で、ライフセーバーから高い評価を受けているようです。

 

【遠隔合同授業による地域格差の縮小】
少子化が進む今、小学校の統廃合が検討されているところも少なくありません。そんな中、地域の未来を担う子どもたちのためにも、統廃合せずに学校を存続させようとする動きが活発化しています。そうした取り組みの一つが、学校間をリモートで繋いで行われる合同授業です。こうした遠隔授業は教育現場で高い評価を受けており、学校間の地域格差、教育格差を埋める手段として期待されています。

 

【センサー技術を駆使した情報収集】
防災情報や避難所マップなど、リスク回避のための情報提供も自動化することが可能です。人が出向いて調査するには危険な場所も多く、そのような場所ではセンサー技術などによる情報収集が行われています。また、昼夜を問わず常にモニタリングできるのもセンサーを用いる強みのひとつです。

 

3.自治体DXに取り組むポイント

すでにDXに成功している自治体もある中で、実際にはまだまだ対応が遅れている自治体も多いのが現実です。DXを進めるには、どういった点に気を付ければ良いのでしょうか。本章では、3つのポイントを解説します。

3-1.高度なITスキルと知識を持つ人材の確保

DXをスムーズに実施するには、高度なITスキルと知識を持つ人材が不可欠です。しかし、煩雑な業務に日々追われている自治体職員がDXの推進計画を立てたり、導入システムを的確に選定したりするのは難しいと言わざるを得ません。民間コンサルティング企業への委託など、外部との協力は最も現実的な選択肢といえるでしょう。その上で、職員へのIT教育の実施も大切です。

3-2.DXへの理解と財政状況の把握

DXが実現すれば様々な業務を効率化できますが、長年にわたって勤務してきた職員の中には、新しいシステムを使って業務を行うことへの不安から難色を示す方もいるでしょう。なぜDXを行うのか、目的やメリットを丁寧に説明して職員の理解を得ることが大切です。また、DXを推進するための十分な予算があるか、財政状況も把握しておかなければなりません。

3-3.組織全体の意識改革と部署間の連携

記事冒頭にあるように、2025年度末までに自治体ごとに異なる業務システムを統一・標準化するという目標が、現在政府によって掲げられています。目標期限が迫ってきていますが、長年慣れ親しんできた体制からの脱却は簡単なことではありません。DXは短期間で実現可能なものではなく、長いスパンでの継続的な取り組みが必要です。組織全体でDX推進の意識を持ち、部署間で連携を取りながら計画を立てていきましょう。

 

4.まとめ

高齢化がますます進む今、自治体職員の数が減少していくことは避けられません。少ない人数で多数の高齢者を支えるために、DXによる業務の効率化と負担軽減は急務と言えるでしょう。記事で紹介した事例を参考に、施策を検討してみてください。