COLUMN

2023.09.08 DX導入

コスト削減から生産性向上まで:ペーパーレス化が企業に与える影響

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コスト削減から生産性向上までペーパーレス化が企業に与える影響

現代のビジネス環境において、DX(デジタルトランスフォーメーション)はますます重要性が増しています。
DXを推進するためには、デジタル技術の導入や活用が必要不可欠ですが、中でも、ペーパーレス化はその第一歩として重要なステップとなります。本記事では、ペーパーレス化の意義やメリット、取り組み方について解説し、DXを進める上での重要性について探っていきます。

 

1.ペーパーレスとは・・・

ペーパーレスとは、紙を使わずにデジタル化された情報を用いて業務を行うことを指します。 従来の業務プロセスにおいて、書類や伝票などの情報は紙でやりとりすることが一般的でしたが、近年はデジタル化の進展により、これらの情報もデジタル媒体でやりとりされるようになってきました。 具体的には、電子メールやファイル共有サービス、クラウドストレージなどが挙げられます。書類やデータを電子化することで、書類の印刷や保管を必要とせずに管理することができます。これらの取り組みによって、業務プロセスの効率化やコスト削減、情報共有の迅速化、環境保全など多数のメリットが得られるとされています。
近年では多くの企業や組織でペーパーレス化が進んでおり、業務の効率化や環境保全に貢献しています。しかし、データの保護や情報漏洩等には注意が必要です。

 

2.DX推進の始まりはペーパーレス化

金融業界におけるDX推進の始まりも、ペーパーレス化から始まったと言われています。
業務の効率化やコスト削減が比較的容易に実現できることや、より高度なデジタル技術の導入や活用を進めることができるためです。
金融業界では、数多くの書類や契約が必要となるため、紙の使用量が非常に多く、その管理や保管に多大な手間とコストがかかっていました。しかし、書類の作成や受取り、承認プロセスなどを電子化することで、これらの課題を解決することができます。また、業務プロセスのデジタル化が進めば、人的エラーによる業務のミスや紛失リスクが低下することも期待できます。
多くの企業がデジタル化を進める中、いつまでもDXを先送りしていればその分将来的な重荷が増えていきます。ペーパーレス化を行っただけでDXを実現したとは言えませんが、少なくとも準備段階に入ったことになります。逆に言えば、ペーパーレス化ができていない企業は、DXの入り口にも立てません。市場競争に耐えうる企業改革という最終目標に向かい、まずはペーパーレス化から着手していくことが必要です。ペーパーレス化を足掛かりに、社内全体でより抜本的なDXを受け入れやすい体制を時間をかけて築いていきましょう。

3.DXがもたらす効果

金融業界は昔から大量の紙文書を扱ってきましたが、これらの文書をデジタル化することで、業務の効率化や生産性の向上を図ることができるとされています。現在、世界的にもペーパーレス化は大幅に進んでいますが、まだ完全に実現しているわけではありません。一部の金融機関では、モバイルアプリやWebサイトを通じた電子口座や取引履歴の提供、デジタル署名や電子契約の導入など、様々なペーパーレス化の取り組みを進めています。一方で、紙による手続きや契約もまだまだ残っているのが現状です。
今後も技術の進歩や顧客ニーズの変化に対応し、金融業界のペーパーレス化が進んでいくことが期待されていますが、ペーパーレス化には顧客の利便性やセキュリティの確保といった課題もあります。

以下では、ペーパーレス化のメリット、デメリットについて紹介します。

 

4.メリット

ペーパーレス化がもたらす金融業界へのメリットは、以下のようなものが挙げられます。

 

1. コスト削減

金融機関では、多くの紙文書が取り扱われています。
そのため、ペーパーレス化を進めることで、印刷などにかかる多大な費用の削減につながります。また、郵送代や紙文書の保管・廃棄にかかるコストも同時に削減できます。

 

2. ワークフローの改善

ペーパーレス化により、業務プロセスが効率化され、作業の効率が向上することが期待されています。
紙の書類では、提出から処理までに時間がかかるため、顧客とのコミュニケーションが遅れる可能性もありましたが、ペーパーレス化することで顧客とのやりとりがスムーズになり、顧客満足度の向上も期待できます。契約書類の処理も、電子契約書類であれば、調印や承認プロセスを簡素化し、作業時間を大幅に短縮することが可能になります。また、業務で扱うデータを自動化し、処理を高速化することで、銀行の振り込みやクレジットカードの支払いなどの処理時間も短縮されるため、これらの作業にかかっていた人件費の削減にもつながります。

 

3. 情報共有の促進

ペーパーレス化によって、情報の共有が容易になります。
電子文書であれば、共有先の担当者に指先一つで簡単に送信することができ、迅速な情報共有が可能になります。また、個人間での情報の共有だけでなく、複数人が同じ情報へアクセスできるよう操作することも容易です。共同作業の場面では、複数人が同時にアクセスできる共有フォルダを設けることで、作業の重複を防ぐことができ、効率化を図ることができます。他にも、会議資料を電子化することで、瞬時にメンバーに共有できるようになるため、時間や場所に制限されずに共同作業や意見交換を行うことが可能になります。
こうした理由から、ペーパーレス化は生産性を向上させます。

 

4. リスクの軽減

ペーパーレス化により、紙文書の紛失や盗難、改ざんなどのリスクを低減できます。

電子文書では、データの暗号化やアクセス制限などのセキュリティ対策を施すことができるため、重要な情報を外部に持ち出されるリスクを紙文書よりも抑えられます。

 

5. 環境負荷の軽減

ペーパーレス化は、エコロジー的な側面からも注目されています。
紙の使用には、環境に様々な悪影響を与える問題があります。莫大な紙の使用量を削減することで、森林伐採や廃棄物処理、印刷や郵送時の二酸化炭素排出量が減り、森林の保全や環境への負荷軽減につながります。

 

5.デメリット

一方、DXがもたらす金融業界へのデメリットは以下のようなものが挙げられます。
デメリットを明確にしておくことで、DXに伴うリスクを最小限に抑え、効果的な活用ができます。

 

1. データ漏洩のリスク

ペーパーレス化では情報がオンラインで共有されるため、常にデータ漏洩のリスクがあります。例えば、外部からの不正アクセスによる情報漏洩や、誤ってデータを削除してしまう可能性もあります。こうしたリスクを防ぐには、アクセス権限の制限やパスワードの強化など適切なセキュリティ対策を取る必要があります。

また、ハードウェアの紛失や故障などの可能性もあるため、データのバックアップを取ることも重要となります。

 

2. ユーザーのトレーニングの必要性

ペーパーレス化が起こると、人によっては使い慣れていない新しいデジタルツールやシステムを使用することになります。新しいツールやシステムが日々開発される昨今では、こうしたツールを使いこなすための十分なトレーニングや教育が必要になります。

 

3. 導入コストがかかる

ペーパーレス化には、専用ソフトウェアやシステムなどの導入コストがかかる可能性があります。

また、データのバックアップやセキュリティ対策など、継続的な維持費がかかる場合もあります。利便性や機能に応じてコストも大きく変わるため、どれだけ初期コストを抑えて最適なシステムを導入できるかが、ペーパーレス化の最初の課題となるでしょう。

 

4. システム障害によるリスク

ペーパーレス化によって、ネットワーク上のシステムで文書が管理されることになるため、通信障害やシステム障害による業務の停滞が生じるリスクがあります。そのため、このような障害への対策として、代替ツールの準備や検討が重要となります。

6.DX推進・ペーパーレス化を阻む課題

ここまで、ペーパーレス化について詳細に解説してきたため、早々に移行すればよいと考えてしまうのも無理はありません。ですが、実はそう簡単に移行できる企業ばかりでもないのが現状です。このセクションでは、ペーパーレス化を阻む要因について解説していきます。

 

1. なんとなく紙に信頼を寄せている、昔ながらの企業文化

日本企業の多くは、長きにわたって紙や印鑑で重要書類のやり取りを行ってきました。そのため、「紙として目に見える形で存在しているほうが安心」という心理や、一気に体制が変わってしまうことへの恐怖感や面倒くささから、思うようにペーパーレス化が進まない状況に陥ることも少なくありません。ペーパーレス化を推進するためには、目的やメリットを全従業員に理解してもらう必要があります。

 

2. 紙に押印する必要がある書類の残存

申込書や請求書等の契約書類はデジタル化が進んでいますが、公正証書で作成する必要のある契約書など、デジタル化できない書類の存在も認識しておかなければなりません。まずはデジタル化できる書類とできない書類の洗い出しを行った上で、使用頻度の高い書類から順にデジタル化していきましょう。

 

3. リテラシーレベルとツールのミスマッチ

ペーパーレス化を推進する際、新たなツールを導入すると現場から不満の声が上がることが多くあります。操作が難しかったり、処理が煩雑だったりするツールや、既存の保有デバイスに多大な負担がかかるオーバースペックなツールを選ばないように注意しましょう。ツールの導入を検討する場合、導入にあたってのサポート体制を加味した選び方も非常に重要となってくるでしょう。

 

4. 目標を共有し数値化する

現場の不満や不安を極力抑えるためにも、ペーパーレス化による目標を従業員に共有し、数値として成果が目に見える形で示すことも重要です。ペーパーレス化によって決済承認や契約締結に至るまでの時間が大きく短縮され、長時間労働の是正にも繋がることをはっきりと示す必要があります。導入前後で効果が目に見えてわかるように、効果計測は確実に行うようにしましょう。

 

7.ペーパーレス化に役立つITシステム・ツール

1. OCR/AI-OCR

紙の文書をデータ化するのに役立つのがOCRです。
OCRとは「Optical Character Recognition」の略で、日本語では「光学文字認識」と訳されます。つまり、手書き文字や、印刷された文字を読み取り、コンピューター上で扱うテキストデータに変換する技術です。これによって、文書をスキャンした際に画像ファイルではなく、テキストデータを生成することが可能になります。
更に現在、AIを活用したOCR技術(AI-OCR)により、様々なフォントや手書き文字をテキストデータとして認識、変換することが可能になりつつあります。また、世界中の言語や記号文字のバリエーションにも対応しつつあるため、扱い方次第では他言語間での専門性の高いやり取りや、複雑な記号文字を扱う文書が必要な場面でもOCR技術を活用することができるでしょう。これによって、文書管理の効率化だけでなく、教育や研究など幅広い分野での利用が予想されます。

 

2. 電子契約ソリューション

電子契約ソリューションとは、紙に書かれた規定と同様に法的に有効なデジタル契約を提供する技術のことで、紙媒体と違って印刷したり相手元に送付したりする必要はありません。このサービスは、安全かつ信頼性の高い方法で署名をデジタル化し、文書の承認プロセスを劇的に高速化します。

電子契約は、企業だけでなく個人単位でも利用されており、不動産取引、保険、医療、教育など多岐にわたる分野で使われています。この技術は契約プロセスの透明性を高め、認証と追跡の機能を提供するため、法的なリスクを軽減することにもつながります。

 

3. クラウドストレージ

クラウドストレージとは、インターネット上でデータを保存・管理するサービスのことで、多様なニーズに対応しています。ユーザーはどこからでもストレージにあるデータへのアクセスが可能で、異なるデバイス間でのファイル共有やデータの保管など、様々な用途で利用されています。Google DriveやDropboxなどは、人気のクラウドストレージサービスです。ファイルの共有や同期が簡単に行えるため、個人だけでなく企業が利用していることも多いクラウドストレージの代表と言えます。
気軽にどこからでもアクセスできるだけでなく、物理的なストレージの購入・管理のコストを削減できるのも大きなメリットと言えるでしょう。また、災害などが発生した場合でも、クラウド上にデータが保存されているため、物理ストレージの損傷によるデータ消失のリスクがなくなります。
セキュリティ面においても、多くのプロバイダーが高度な暗号化技術や認証手段を提供しているため、安心して利用することができ、デジタル化が進む現代社会において、個人から企業まで幅広い層に利用されるサービスとなっています。

8.ペーパーレス化を推進する方法

ペーパーレス化を推進する方法には、以下のようなものがあります。

 

1. デジタルツールの導入

ペーパーレス化のためには、まずデジタルツールの導入が必要です。 

先述したクラウドストレージや電子契約ソリューション、OCRソフトウェアなどのツールを導入することで、文書をデジタル化して保存管理することが可能になります。

 

2. 業務オンライン化の推進

業務のオンライン化を進めることも重要です。口座開設や申込書提出などの業務をオンラインで完結できるようにすることで、業務効率が上がり、顧客の利便性向上も期待できます。

 

3. 組織文化の変革

ペーパーレス化に伴い、新しい方法や習慣を身に付けることが必要となるため、社内での理解や協力が必要とされます。従来の文化に固執することなく、変化に柔軟に対応できる組織文化を作り上げることが重要です。組織文化の変革には時間はかかりますが、DXを成功させるためには欠かせない取り組みです。

 

4. 管理体制の整備

ペーパーレス化に伴い、情報セキュリティやコンプライアンス管理の体制を整備することも必要不可欠です。デジタルデータの保管や運用ルールの策定、セキュリティ対策だけでなく、バックアップ方法の策定や災害対策も必要となります。

 

5. 顧客教育の強化

ペーパーレス化を推進するためには、顧客教育の強化も必要です。
顧客にデジタルツールの使い方を覚えていただくことで、ペーパーレス化に対する理解が深まり、スムーズな業務進行につながります。また、顧客からのフィードバックを収集し、サービスやシステムの改善につなげることで、顧客満足度を高めることができます。
これらの施策により、ペーパーレス化の推進がスムーズに進行し、DXに繋がることが期待されます。

9.ペーパーレス化の成功事例

1. 印刷コストの大幅な削減

某出版社は、徹底した印刷抑制対策に乗り出しました。この出版社は、長年原稿を紙に印刷して確認することが習慣化しており、膨大な印刷コストに悩まされていました。対策としてまず、社内勉強会を実施し、社内でペーパーレス化に対する意識を向上させることに多くの時間を割きました。さらに、各部署ごとに方針を立て、中長期間で紙の使用量を減らしていきました。長きにわたって染みついた習慣を変えることは容易いことではなく、時間はかかったものの、結果として印刷コストを大幅に削減することに成功しています。

 

2. 情報伝達の円滑化とペーパーレス化

某商社では、情報をスムーズに共有することが大きな課題の一つとされていました。この課題を解決するために行った取り組みの一つが、営業担当者にタブレットを配布し、それまでは手書きで行っていた報告書の作成をデジタル化する試みでした。役員やマネージャーにもタブレットを配布し、営業担当者からの報告を何処にいても受けられる環境を整備しました。その結果、スムーズな情報伝達が実現され、会議の際にもタブレットの持参を必須とすることで、7割近くの会議資料をデジタル化することにも成功しました。

 

3. 業務効率化の促進と書類保管コストの削減

某銀行では、営業店で発生する帳票の保管や情報共有に課題を抱えていました。そこで、タブレットなどの導入によってペーパーレス化を進めた結果、使用後の書類保管や保管年限による書類整理といった業務が不要となりました。
また同時に、大量の書類をOCRスキャナで読み込みデータ化したため、これまで手作業で行っていた書類の仕分けや集計作業をソフトウェアが代わりに行うことができ、大幅な業務効率化にも繋がりました。

 

10. まとめ

DXに取り組む企業にとって、ペーパーレス化は重要なステップです。
業務プロセスを電子化・デジタル化することで、コストの削減や生産性の向上、情報セキュリティの向上、環境負荷の削減などが期待できます。導入コストを懸念する方もおられるでしょうが、長期的な視点で見ると紙媒体を使い続けるよりも低く済むため、ペーパーレス化はDXにおける初めの一歩として取り組みやすいと言えます。
ただし、デジタルデータを取り扱うためのシステムやルールは整備が必要であり、適切な導入方法が求められることも念頭に置く必要があります。目的やニーズに合わせたペーパーレス化戦略を策定し、一歩ずつ着実に取り組んでいく事がDX推進をより後押しする行動となるでしょう。