COLUMN

2026.06.24 金融業界

犯罪収益移転防止法 2027年改正を完全整理|対面IC義務化・非対面JPKI一本化と金融機関の実務対応

#eKYC #公的個人認証/JPKI #本人確認 #犯収法改正

犯収法2027年改正の全体像を示した概要図。改正ポイントや新旧制度の位置づけ、本人確認方法の変更内容を俯瞰的に整理し、実務への影響を分かりやすく示したメイン図

偽造された本人確認書類を使ったなりすましが巧妙化するなか、犯罪収益移転防止法(以下「犯収法」)の本人確認ルールが大きく変わります。対面取引ではICチップ読み取りが原則として義務付けられ、非対面取引では公的個人認証サービス(JPKI)への一本化が進みます。

「2027年4月改正」とひとくくりにされることが多いですが、実際には複数の命令が段階的に整備されてきたものです。この記事では、廃止される手法・残る手法・新設される手法の全体像と、金融機関をはじめとする特定事業者が取るべき実務対応を、警察庁・JAFIC・デジタル庁等の公表資料に基づいて整理します。施行細目は今後更新されることもあるため、実務対応にあたっては最新の公表資料をあわせてご確認ください。

 

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目次

1.2027年改正で本人確認はこう変わる

まず変更の骨子を3点で押さえておきましょう。

 

対面取引:写真付き・ICチップ付き本人確認書類について、ICチップの読み取りが原則として義務付けられます。券面の目視確認のみで完結していた運用は、見直しが必要になります。
非対面取引:本人確認書類の画像送信(いわゆる「ホ方式」)が廃止され、JPKIを中心としたICベースの方法へ原則一本化されます。
法人の確認:本人確認書類の「写し」の送付が認められなくなり、原本に限定される方向です。

 

犯収法の変更点

ただし、これらは一つの改正ではなく、対象範囲の異なる複数の命令によって段階的に整備されてきたものです。次章でその構造を整理します。

2.「2027年4月改正」は3本の共同命令による段階的改正

「2027年4月改正」という言葉がひとり歩きしていますが、実際には施行規則6条を改正する3本の共同命令が段階的に整備されてきたものです。それぞれの対象範囲と施行日を正確に把握することが、実務対応の出発点となります。

2-1.スマホ搭載マイナンバーへの対応(施行済み)

令和7年共同命令第2号は2025年6月24日に公布され、すでに施行されています。スマートフォンに搭載したマイナンバーカード機能(カード代替電磁的記録)を本人確認に利用できるようにするもので、後述の「ル方式」を追加した改正です。

2-2.非対面取引の厳格化(2027年4月1日施行)

令和7年共同命令第3号は2025年6月24日に公布され、施行日は2027年4月1日です。従来主流であった「ホ方式」(顔写真付き本人確認書類の画像送信+容貌の自撮り送信)を廃止し、ICチップ情報の送信+容貌送信による方法や、スマートフォン搭載マイナンバーカードを用いる方法へと一本化するものです。

2-3.対面取引の厳格化(2027年4月1日施行)

令和8年共同命令第1号は2026年3月6日に公布され、令和7年共同命令第3号と足並みを揃えて2027年4月1日に施行されます。対面取引における本人確認方法(イ〜ニ方式等)を見直し、ICチップ読み取りを原則として組み込むほか、郵送を併用する方法や代表者等を介した確認、ハイリスク取引の厳格化を含みます。

 

※施行細目や経過措置、関連するガイドライン・事務連絡は今後更新される可能性があります。公開直前に警察庁JAFICの最新の公表資料を確認してください。

 

出典:e-Gov「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令(令和8年共同命令第1号)パブリックコメント
警察庁 JAFIC「犯罪収益移転防止法の解説、パブリックコメント(改正事項に関する資料等)

3.本人確認が厳格化される背景

今回の見直しの直接的な背景は、偽変造された本人確認書類を使った架空・他人名義の口座開設が、詐欺等に悪用されている実態にあります。生成AIや画像加工技術の進化により、精巧な偽造書類を目視で見抜くことは難しくなっており、画像送信や券面確認に頼った従来の方法では限界があります。

 

政策面では、「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(令和7年4月22日 犯罪対策閣僚会議決定)において、非対面の本人確認をマイナンバーカードの公的個人認証に原則一本化し、対面でもICチップ読み取りを義務付ける方針が明示されました。デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」やFATF(金融活動作業部会)の勧告とも方向性が一致しており、国際的な基準への対応という側面もあります。

 

出典:犯罪対策閣僚会議「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」(令和7年4月22日)
デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画
JAFIC「犯罪収益移転防止法の概要

4.【非対面】ホ方式の廃止とJPKI一本化

4-1.ホ方式(撮影認証)とは?なぜ廃止されるのか

非対面取引で最も広く利用されてきたのが、本人確認書類の画像と本人の容貌画像をアプリで撮影・送信する「ホ方式」です。手軽さから普及した一方、精巧な偽造書類や加工画像を用いたなりすましのリスクが指摘されてきました。先行改正規則により、この方式は廃止されます。現在ホ方式を採用している事業者にとっては、最大の移行課題となる点です。

4-2.移行先となる主な方法は「JPKI・ICチップ読み取り・スマホ搭載マイナンバーカード」

ホ方式の廃止後、非対面の本人確認は、なりすましリスクの低いICベースの方法が中心となります。代表的なものは次のとおりです。

 

公的個人認証サービス(JPKI)
マイナンバーカードのICチップに搭載された署名用電子証明書を用い、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の公的個人認証サービスに有効性を照会して本人確認を完結させる方法です。なりすましや改ざんに強く、信頼性の高い方法と位置づけられています。

 

ICチップ読み取り+容貌送信
マイナンバーカードや運転免許証等のICチップ情報を読み取り、その場で撮影した容貌画像と併せて送信する方法です。ICチップ内の顔写真情報と突合することで、利用者本人であることを確認します。

 

スマートフォン搭載マイナンバーカード(カード代替電磁的記録)
スマートフォンのウォレット機能に登録したマイナンバーカード機能を用いる方法です。

4-3.カード代替電磁的記録(ル方式)とは? モバイル運転免許証(mdoc)との違い

2025年6月24日施行の施行規則で追加された「ル方式」は、「カード代替電磁的記録」、すなわちスマートフォンに搭載したマイナンバーカード機能を用いる方法です。送信用プログラムとして認定を受けているのは、執筆時点ではApple Walletです。物理的なカードの読み取りやパスワード入力を伴わず、事前に登録した情報と生体認証で手続きが完結します。

 

これは、ISO/IEC規格に基づくモバイル運転免許証(いわゆる「mdoc」)とは異なる概念です。両者を混同した解説が見られますが、犯収法施行規則上の「ル方式」はあくまでマイナンバーカード機能のスマートフォン搭載を前提としたものである点に留意してください。

 

出典:デジタル庁「カード代替電磁的記録(属性証明機能)」 / 犯収法施行規則6条1項1号ル

5.【対面】ICチップ読み取りの原則義務化

本章で扱う対面取引の厳格化は、令和8年共同命令第1号(2026年3月6日公布)として確定済みの内容です。施行日は2027年4月1日です。

5-1.対面の本人確認はどう変わる|目視確認からIC読み取り+映像面表示へ

改正後は、写真付き・ICチップ付き本人確認書類について、券面を提示するだけでなく、ICチップに記録された情報を読み取り、映像面に表示して確認することが原則として求められます。目視では見抜きにくい精巧な偽造への対策が強化される一方、窓口にはICチップ読み取りに対応した機器の導入が必要になります。

5-2.窓口で直面する実務リスク|運転免許証のICロック問題

対面のIC読み取り義務化で、現場が直面しうる具体的な課題があります。運転免許証は、マイナンバーカードや在留カードと異なり、ICチップ読み取りに必要な暗証番号が利用者に十分に周知・記憶されていないのが実情です。暗証番号を一定回数誤るとロックがかかり、その解除は警察署でしか行えません。この点については、一般社団法人全国銀行協会も意見募集の中で、窓口で顧客が大きな不便を被る場面が多発しかねないとの懸念を示しています。

事業者としては、ICチップが読み取れない場合の代替手順(補完書類による確認や郵送を併用する方法など)をあらかじめ明確に定め、窓口担当者が迷わず案内できる運用を整備しておく必要があります。

 

出典:一般社団法人全国銀行協会「パブリックコメント意見」(2025年12月26日提出)

5-3.マイナンバーカードを持たない顧客への対応

ICチップ付きの本人確認書類を持たない顧客への配慮として、偽造防止措置が講じられた一定の本人確認書類(住民票の写し等)の原本送付と転送不要郵便を組み合わせる補完措置も整備されています。ただし全体の方向性は厳格化であり、「ICが使えなければ柔軟に対応できる」という前提のまま運用を続けることは難しくなる方向です。代替手順はあらかじめ明確にしておく必要があります。

6.犯収法施行規則6条1項1号 条文番号の新旧対応表

今回の見直しでは、現行の手法のいくつかが廃止されることに伴い、本人確認手法を定める施行規則6条1項1号の細分(イ・ロ・ハ…)の割り振りが全体的に振り直されます。社内規程・マニュアルが条文番号を引用している場合、その改訂作業が必要になります。自社が現在採用している方式が改正後にどう位置づけられるかを、以下の対応表で確認してください。

6-1.対面取引

対面取引における犯収法の改正前後比較(新旧対応表)。現行の本人確認方法(写真付き書類1点、写真なし書類+補完書類など)と改正後の変更点(ICチップ読み取り追加、映像確認義務化、一部手続きの廃止)および実務への影響を整理した表

6-2.非対面取引

非対面取引における犯収法の改正前後比較(新旧対応表)。現行の本人確認方法(画像送信、ICチップ読み取り、郵送手続きなど)と改正後の変更点(画像送信の廃止、ICチップ読み取り中心への厳格化、一部手続きの廃止・内容維持)および実務への影響を整理した図

6-3.郵送・電子署名系

郵送・電子署名に関する犯収法の改正前後比較(新旧対応表)。郵送による本人確認手続きや電子署名を用いた手法について、現行方法と改正後の変更点(廃止・厳格化・維持)および実務への影響を整理した表

6-4.新設(住民基本台帳法の適用を受けない者・国外転出者向け)

犯収法の新設要件の概要図。新たに追加された本人確認方法や手続き要件について、内容と位置づけを整理し、実務への影響を分かりやすく示した図

上記の対応表は、令和7年共同命令第2号・第3号および令和8年共同命令第1号による改正後の最終的な体系を示しています(いずれも公布済み、施行日2027年4月1日。ただし令和7年共同命令第2号は施行済み)。条文番号・要件の最終確認は、施行規則本文(e-Gov)および警察庁JAFICの公表資料で行ってください。

7.法人・士業・ハイリスク取引への影響

今回の見直しは、自然人の本人確認だけでなく、法人や代表者を介した取引、ハイリスク取引にも及びます。

 

法人の確認:本人確認書類の写しの送付が認められなくなり、原本に限定されます。
補完書類:原則として原本のみが認められます。
ハイリスク取引:なりすましの疑いがある取引や、特定の国に関係する取引、外国PEPsとの取引では、通常の特定取引より厳格な方法での確認が求められます。財産の移転を伴う一定の取引では、資産及び収入の状況の確認も必要です。

 

なお、士業(司法書士・行政書士・公認会計士・税理士・弁護士)については、宅地建物の売買、会社の設立・合併、200万円を超える現金・預金・有価証券その他の財産の管理・処分等に関する特定受任行為の代理等を行う際に、本人特定事項の確認義務が課されています。金融機関と同様に、ICベースの本人確認への移行が求められます。

 

出典:JAFIC「犯罪収益移転防止法の概要」 / 警察庁「パブリックコメント案文

8.2027年改正への対応ロードマップ

8-1.準備期間をどう見積もるか|施行日から逆算した着手の考え方

施行日は2027年4月1日と確定しています。一定の準備期間はありますが、システム改修・機器調達・業務フロー再設計にはリードタイムが必要です。施行日から逆算すると、早めに着手することが大切です。

金融庁と警察庁は局長級会合を開催し、預金取扱金融機関のモニタリング強化や情報共有の枠組みづくりについて連携を確認しています。当局による監督は強化される方向にあり、廃止対象の手法を使っている事業者は早期の移行計画が求められます。

 

出典:金融庁・警察庁「局長級会合の開催について」(令和7年5月)
犯罪対策閣僚会議「国民を詐欺から守るための総合対策2.0

8-2.着手すべき6つのタスク|現状把握から顧客周知まで

対応すべき作業は多岐にわたりますが、大きく次の6つに整理できます。

 

現状把握:自社が現在採用している本人確認方式を棚卸しし、廃止・存置・要件変更のいずれに該当するかを対応表で確認する。
システム改修・機器導入:JPKI連携やICチップ読み取りに対応するためのシステム改修、対面用のICカードリーダーの選定・配備を計画する。
業務フローの再設計:ICが読み取れない場合の代替手順、顧客からの問い合わせ対応などを明文化する。
規程・マニュアルの改訂:条文番号の振り直しを反映し、社内規程・マニュアルを更新する。
社内教育:窓口・審査担当者への研修を実施する。
顧客への周知:本人確認方法の変更を、ウェブサイトやFAQ、窓口掲示等で事前に案内する。

 

これらは相互に関連するため、施行スケジュールから逆算した計画的な推進が求められます。

9.2027年改正に向けた本人確認体制の整備を、今から

ホ方式の廃止、対面でのICチップ読み取り義務化、法人確認における原本限定——いずれも「運用の一部を手直しする」レベルではなく、確認方式の選び直しとシステム・業務フローの再設計を求めるものです。対応すべき論点が多く、どこから手をつければよいか整理に迷っている担当者の方も少なくないと思います。

施行日は2027年4月1日とすでに確定しています。システム改修・機器調達・業務フロー再設計には一定のリードタイムが必要で、委託先の選定から開発・テストまでを考えると、着手のタイミングは早いほど選択肢が広がります。まずは自社の現行方式の棚卸しと、移行先の確認から始めることが、実務的な第一歩になります。

プリマジェストでは、JPKI導入をはじめとする本人確認体制の整備について、技術的な準備から運用設計までトータルでサポートしています。ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。

 

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