COLUMN

2025.12.01 金融業界

JPKIとは?仕組み・導入メリット・2027年法改正対応まで徹底解説

#eKYC #公的個人認証/JPKI

JPKI(公的個人認証)とは

金融機関を中心にオンライン本人確認の重要性は年々高まっています。特に、2027年4月に施行予定の犯罪収益移転防止法の改正は、本人確認の方法を大きく変える転換点となります。この改正では、マイナンバーカードを活用した公的個人認証(JPKI)方式が本人確認の標準となる見込みです。なりすましや偽造リスクが増加する中、JPKIは安全性と信頼性を兼ね備えた認証基盤として注目されています。本記事では、JPKIの仕組み、導入メリット、法改正への対応、そして具体的な活用事例までを詳しく解説します。

1.JPKIとは?仕組みと特徴

1-1.JPKIの基本構造とPKI技術

JPKI(公的個人認証)は、日本政府が提供する認証基盤であり、マイナンバーカードに搭載された電子証明書を利用して本人確認を行います。この仕組みは公開鍵暗号基盤(PKI)に基づいています。PKIとは、公開鍵と秘密鍵のペアを用いて情報の暗号化や署名を行う技術で、通信の安全性と本人性の保証に不可欠です。

JPKIでは、認証局と呼ばれる信頼できる第三者機関が電子証明書を発行します。認証局は申請者の本人性を厳格に確認したうえで証明書を発行するため、偽造や不正利用のリスクを大幅に低減できます。この仕組みにより、オンラインでの取引や申請において、利用者が本人であることを高い精度で証明できます。

JPKIで利用される電子証明書は主に次の2種類です。

 

署名用電子証明書
電子申告や契約締結時に、文書が本人によって作成されたことを証明します。これにより、法的効力を持つ電子署名が可能になります。

利用者証明用電子証明書
オンラインサービスへのログイン時に本人であることを証明します。行政手続きや金融機関のオンラインバンキングなどで利用され、なりすまし防止に役立ちます。

 

これらの証明書はマイナンバーカードのICチップに格納されており、暗号化技術によって保護されています。

 

出典:デジタル庁「公的個人認証サービス(JPKI

1-2.マイナンバーカードとの関係

JPKIの利用にはマイナンバーカードが不可欠です。カードのICチップには署名用と利用者証明用の電子証明書が保存されており、オンラインで本人確認を行う際にはカードをICカードリーダーにかざすか、スマートフォンのNFC機能を使って読み取ります。

認証の際には暗証番号(PIN)の入力が求められます。これはカードの所有という「物理的要素」と、PINという「知識要素」を組み合わせた二要素認証であり、セキュリティをさらに強化します。このプロセスにより、カードを持つ本人であることが確実に確認されます。

マイナンバーカードとJPKIの組み合わせは、従来の本人確認方法に比べて圧倒的に高い信頼性を提供します。偽造や不正利用が困難であるため、金融機関にとっては、オンライン取引や行政サービスの安全性を確保するうえで欠かせない仕組みとなっています。

2.なぜ今JPKIなのか?2027年法改正の背景

近年、金融機関や資金移動業者などに求められる本人確認手法は、犯罪収益移転防止法(犯収法)の改正によって大きく変化しています。この法改正は、2025年と2027年の2段階で施行され、本人確認の方法や基準が段階的に見直されます。

まず、2025年6月施行の改正では、スマートフォン等に搭載可能な「カード代替電磁的記録」を用いた新しい本人確認方法が導入され、マイナンバーカード以外でも電子的な本人確認が可能となりました。また、従来の画像送信や書類の写しによる本人確認手法についても、厳格化や整理が進められています。

一方、2027年4月施行予定の改正では、なりすましリスクの高い方式(画像送信や書類写し送付等)が原則廃止され、マイナンバーカードと電子証明書を活用したJPKI方式への一本化が本格的に進められる予定です。

このように、本人確認の制度変更は段階的に進行しているため、2025年・2027年それぞれの改正内容を正しく理解し、早めに対応を進めることが重要です。

 

JPKIが注目される最大の理由は、2027年の法改正によって、金融機関や資金移動業者などの特定事業者における本人確認方法が抜本的に見直され、JPKI方式が原則として一本化される見込みである点です。

 

従来のオンライン本人確認(eKYC)では、「ホ方式」(本人確認書類の画像と顔写真の照合)や「ヘ方式」(ICチップ情報の読み取りと顔写真の照合)など複数の方式が認められていました。しかし、AIによる画像生成や偽造技術の進化により、これらの方式では不正利用を完全に防ぐことが難しくなっています。

JPKI方式は、マイナンバーカードに格納された電子証明書を利用し、カード発行時に厳格な本人確認を経ています。さらに、ICチップ内の情報と暗証番号(PIN)を組み合わせた二要素認証により、なりすましや偽造が極めて困難です。この仕組みは、金融機関や事業者が求める高いセキュリティ基準を満たすだけでなく、法改正への対応にも直結します。

2027年以降は、JPKI方式の導入が事実上必須となるため、システム改修やUI/UX設計、顧客サポート体制の整備を早急に進める必要があります。

2-1.eKYCとの違いと比較

現在、オンライン本人確認(eKYC)が広く利用されています。eKYCには複数の方式がありますが、代表的なものは次のとおりです。

 

ホ方式(撮影照合型)

ホ方式は、スマートフォンで本人確認書類と顔写真を撮影し照合する方法です。導入が簡単で追加機器も不要なため、多くのサービスで利用されています。ただし、偽造書類やAI生成画像によるなりすましのリスクがあり、精度が低い場合は人による確認が必要になることもあります。

ヘ方式(ICチップ照合型)

ヘ方式は、本人確認書類のICチップ情報を読み取り、顔写真と照合する方法です。ICチップの情報を使うため偽造や改ざんがほぼ不可能で、セキュリティは非常に高いのが特徴です。一方で、NFC対応スマートフォンが必須であり、古い機種では利用できません。また、読み取り操作が難しく、システム側の開発コストも高くなるという制約があります。

 

以下は、今後標準化されるワ方式(JPKI)とeKYCで広く利用されているホ方式の比較です。

 

ワ方式、ホ方式の比較

この比較からも、JPKIのワ方式はセキュリティと信頼性の面で圧倒的な優位性を持っています。

3.JPKI導入のメリットとデメリット

JPKI方式の導入は、利用者と事業者の双方に大きなメリットをもたらします。しかし、導入にあたっては考慮すべき課題も存在します。ここでは、利用者側と事業者側のメリット、そしてデメリットについて詳しく解説します。

3-1.利用者側のメリット

JPKI方式を利用することで、利用者は従来の本人確認手続きに比べて大きな利便性を享受できます。マイナンバーカードをスマートフォンやICカードリーダーにかざし、暗証番号(PIN)を入力するだけで本人確認が完了します。これにより、本人確認書類の画像アップロードや顔写真の撮影といった手間が不要になります。

さらに、氏名や住所、生年月日などの個人情報を手入力する必要がなくなるため、入力ミスや不備の発生を防げます。オンラインで完結するため、時間や場所を選ばずに手続きを行える点も大きなメリットです。利用者は、従来の煩雑な手続きから解放され、スムーズな体験を得られます。

3-2.事業者側のメリット

金融機関にとっても、JPKI導入は業務効率化とコスト削減につながります。従来必要だった本人確認書類の目視確認やOCRによる文字情報の読み取り、入力内容との照合といった作業を大幅に削減できます。これにより、事務コストを抑え、一人あたりの処理能力が向上します。

また、利用者による入力ミスや書類不備が減少するため、差し戻しや再確認の工数も削減できます。さらに、JPKIは公的機関が発行する電子証明書を利用するため、なりすましや虚偽の本人確認のリスクを大幅に低減できます。安全性の高い認証方式を導入することで、顧客体験(UX)の向上にもつながります。

3-3.デメリットと課題

一方で、JPKI導入にはいくつかの課題があります。まず、利用者はマイナンバーカードを所持している必要があり、暗証番号(PIN)の管理も求められます。PINを忘れた場合やロックされた場合は再設定の手続きが必要です。

また、現時点ではJPKIに対応しているサービスが限定的であり、金融機関や行政手続きなど公的性の高いサービスが中心です。さらに、電子証明書には有効期限があり、通常は発行から5年間です。期限切れの場合は更新手続きが必要となり、事業者側もシステム設計において有効期限を考慮する必要があります。

4.JPKI導入の手順と必要な準備

JPKI方式を導入するためには、技術的な準備と運用体制の整備が不可欠です。ここでは、導入に必要な具体的なステップと考慮すべきポイントを詳しく解説します。

4-1.導入に必要な技術的準備

まず、マイナンバーカードのICチップを読み取るための機器やソフトウェアの導入が必要です。PCでの利用を想定する場合はICカードリーダーを準備し、スマートフォン対応の場合はNFC機能を活用できるアプリケーションの開発や連携が求められます。これらの機器やソフトウェアは、JPKIの認証プロセスを安全かつスムーズに実行するための基盤となります。

次に、電子証明書の検証を行う仕組みを構築します。これは、認証局との連携や暗号化通信の実装を含みます。認証局は、電子証明書の発行や失効情報の管理を行うため、システム側でこれらの情報を適切に取得・検証できるようにすることが重要です。

4-2.UI/UX設計の重要性

技術的な準備だけでなく、利用者がスムーズに本人確認を行えるよう、UI/UXの設計にも配慮する必要があります。操作が複雑だと利用者の離脱率が高まるため、シンプルで直感的な画面設計が求められます。カード読み取りや暗証番号入力の手順をわかりやすく案内し、エラー時の対応方法も明確に提示することが望まれます。

4-3.運用体制とサポート

JPKI導入後は、万が一のトラブルに備えたサポート体制を整えることも欠かせません。暗証番号(PIN)の再設定やカード紛失時の対応など、利用者が安心してサービスを利用できる仕組みを構築する必要があります。サポート窓口の設置やFAQの整備、オンラインチャットによる迅速な対応などが有効です。

4-4.セキュリティ対策

導入にあたっては、通信の暗号化(SSL/TLS)、厳格なアクセス管理、不正利用の監視体制の構築など、セキュリティ対策を徹底することが求められます。これにより、利用者の個人情報を保護し、サービス全体の信頼性を高めることができます。

5.JPKIが利用できるサービス事例

JPKIは、その高いセキュリティと信頼性から、金融機関を中心に幅広い分野で活用されています。ここでは、具体的な利用事例を詳しく紹介します。

5-1.金融機関での活用

銀行、証券会社、信用金庫、資金移動業者などの金融機関では、JPKIは顧客の本人確認において不可欠な要素となっています。オンラインでの口座開設プロセスにおいて、マイナンバーカードとJPKIを利用することで、eKYC(オンライン本人確認)の「ワ方式」に相当する、安全かつ迅速な本人確認が可能になります。

 

オンライン口座開設
銀行や証券会社で、スマートフォンやPCからインターネット経由で口座開設を行う際に、マイナンバーカードを読み取り、JPKIによる電子署名を行うことで、本人確認が完了します。これにより、来店や郵送の手間を省き、顧客の利便性を大幅に向上させます。

ローン申込・契約
住宅ローンや自動車ローンなどの各種ローン申込時にも、JPKIを用いた本人確認が利用されます。これにより、契約手続きのオンライン化が進み、申込から契約までの時間を短縮できます。

証券取引口座開設・株式取引
証券会社では、投資家登録や、より高額な取引を行う際の本人確認にJPKIが活用されます。これにより、不正利用のリスクを低減し、安全な取引環境を提供します。

クレジットカード発行
新規クレジットカードの申込や、高額な利用枠の設定など、本人確認が厳格に求められる場面でもJPKIが利用されることがあります。

資金移動業者のサービス
決済アプリや送金サービスを提供する資金移動業者においても、マネー・ローンダリング防止の観点から、JPKIによる本人確認が導入されています。

5-2.その他のサービス

金融機関の手続き以外にも、JPKIは多様な分野でその信頼性を活かして活用されています。

 

通信キャリアの契約・手続き
スマートフォンやインターネット回線の新規契約、プラン変更などの手続きにおいて、本人確認のためにJPKIが利用されることがあります。

不動産取引
不動産の売買契約や賃貸借契約など、重要な取引における電子契約の際に、当事者の意思確認としてJPKIによる電子署名が利用されます。

チケット販売(不正転売対策)
人気コンサートやイベントのチケット販売において、購入者の本人確認にJPKIを利用することで、不正な転売やダフ屋行為を抑制する取り組みが進められています。

6.セキュリティ対策とリスク管理

JPKIは国家基盤に支えられた高いセキュリティを誇りますが、利用にあたっては適切なリスク管理が不可欠です。ここでは、JPKIを安全に運用するための主要な対策を詳しく解説します。

6-1.暗号化技術

JPKIで利用される電子証明書および通信のセキュリティは、高度な暗号化技術によって支えられています。中心となるのは「公開鍵暗号方式」と「デジタル署名」です。公開鍵暗号方式では、公開鍵と秘密鍵のペアが用いられ、公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でしか復号できません。これにより、通信の機密性が保たれます。

一方、デジタル署名は、秘密鍵で電子文書に署名し、公開鍵でその署名を検証することで、文書の作成者が本人であること(認証性)、文書が改ざんされていないこと(完全性)、そして署名者が後で否認できないこと(否認防止)を保証します。これらの技術が組み合わさることで、JPKIは安全な本人確認を実現しています。

6-2.二要素認証

JPKI方式による本人確認が強力な認証となるのは、主に「二要素認証」が採用されているためです。具体的には、マイナンバーカードという「所有物」と、そのカードに紐づいた「知識情報(PIN)」の組み合わせによって認証が行われます。例えば、署名用電子証明書を利用する際には、カードを読み取り装置にかざし、さらにPINを入力する必要があります。このように、複数の異なる種類の認証要素を組み合わせることで、単一の要素(例えばパスワードのみ)に依存する認証方式に比べて、不正アクセスやなりすましのリスクが格段に低減されます。

7.2027年法改正に向けてJPKI導入体制の整備を

JPKI(公的個人認証)は、マイナンバーカードを活用した高信頼の本人確認方式として、金融機関を中心に導入が進んでいます。2027年の犯罪収益移転防止法改正により、JPKI方式は本人確認の標準となる見込みです。従来のeKYC方式に比べ、セキュリティ強度やなりすまし防止の面で圧倒的な優位性を持ち、オンライン取引の安全性を確保するために不可欠な仕組みです。

今後は、スマートフォンへのマイナンバーカード機能の搭載や、運転免許証との一体化など、利便性を高める取り組みが進むと予想されます。これにより、より多くのサービスでJPKIの活用が促進され、安全で便利なデジタル社会の実現に大きく貢献していくでしょう。

金融機関は、2027年の法改正を見据え、早期にJPKI導入を検討することが重要です。導入にあたっては、技術的な準備、UI/UX設計、セキュリティ対策、そして利用者サポート体制の整備が不可欠です。これらを適切に実施することで、法令遵守だけでなく、顧客満足度の向上や業務効率化を実現できます。

 

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